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さらに教会から炎の竜巻が舞い上がった。ショウは押された肩の痛みを堪えて詰問した。
「なぜです」
「なにが?」
伯爵はゆったりと椅子に座り直した。
「あいつらは罪人だ。罪人に相応の罰を与えただけだ」
「祈ることがなぜ罪なんですか!」
「この領地で私以外に忠誠を誓うなんて許されないからだ。私が領主になってから、宗教は認めないとあれほど言ったのに、やつらときたら甘い餌をまけば簡単に本性をあらわす。命令に従わず欺き続けてきた奴らは反逆者だ」
ショウは怒りで震えた。
「⋯⋯かわいそうに、まだ子供だっていたのに」
「貴様にも少なからず責任はある。私がやつらを処分するのに教会を利用したのは、お前がミサを仄めかしたからだ。祈りなんてなんの役にも立たないことを証明してやったんだ」
伯爵は取り合わなかった。そしてショウから顔を背けると、ようやく追いついて辿り着いたアスタロトに目を合わせた。さすがのアスタロトも息を切らせている。
「これが私だ、アスタロト」
アスタロトは汗を拭った。長い黒髪が熱風にあおられて広がる。
「私を阻むものは許さない。これが唯一の正解だ」
言って伯爵はアスタロトを見た。アスタロトの心の奥を伺おうとしたが、表情が読めない。ショウのように怒りにたぎっていれば、もしくは伯爵を罵倒してくれたらわかりやすいのに、まだ呼吸を整えている。
痺れを切らして伯爵は言った。
「この一件で民衆は嫌でもわかるはずだ。私に逆らえばどうなるのか」
ようやくアスタロトは吐き出すように言った。
「くだらない」
掠れた小さな声だったが、その言葉は伯爵の胸に針のようにつき刺さった。アスタロトは苦々しい表情で続けて呟いた。
「そんなに俺が信じられなかったか」
アスタロトはひどく哀しげだった。急激に攻撃意欲をそがれた伯爵は言葉が出てこなかった。
風が吹いて教会の柱が砕け散る音がする。
そして、最後の残骸まで炭になった。
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