2-19 謀反

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2-19 謀反

 伯爵の見せしめをかねた処刑で、祭りはなし崩しに終わった。  それまでの華やかさとはうって変わり、葬儀のような暗さが城内を圧倒していた。人々は教会を囲んで動けずにいたが、伯爵が天にむけて銃弾を打ち、強制的に追い払った。  真夜中、城の外に放り出された人々は気味が悪いほど無口だった。  伯爵は自分の恐怖政治が隅々まで行き届いている事を実感し、満足だった。項垂れて歩く人々の、羊のように従順な姿をアスタロトやショウにも見せてやりたいと思ったが、彼らは自室に閉じこもって姿を見せない。  伯爵は妙に居心地が悪かった。  全てが思い通りに進んだのに、いつもなら味わえる束の間の安堵すら訪れない。誰にとっても最悪の夜だった。  そしてさらに悪いことに、夜はこれで終わらなかったのである。  伯爵が寝室で夜着に着替えていると、終わったはずの爆音が響いた。 「何事だ」  伯爵はすぐに上着を羽織り、激しく呼び鈴を鳴らした。だが、いつもならすぐに駆けつけてくるはずの兵がいつまでもやってこない。  伯爵はいらいらして呼び鈴を床にぶつけると、自らドアを開けようとした。だが、ドアはびくともしなかった。ぎょっとした。鍵ではない。なにか大きくて重いもので塞がれている。 「衛兵! 返事をしろ!」  答えはなかった。だとすれば、この遅れと沈黙は、故意だ。  そして再び大きな爆発が起こった。  強烈な立て揺れで立っていられない。伯爵は四つんばいになって窓辺に戻った。カーテンの隙間から城下を見下ろす。教会に使用した火薬の残りが暴発したのかと疑ったが、そんなささやかな規模ではなかった。城の一部がなくなり、白い煙が立ちのぼっている。  中庭には大勢の兵士と民衆が大砲を設置して伯爵の部屋を狙っていた。 「これは……」  伯爵は戦慄した。  彼がもっとも恐れていた裏切りの歴史が再開しようとしている。  伯爵は全身の血が逆流する気がした。幼少の頃の記憶が鮮やかに蘇る。  あの時、首謀者は叔父だった。しかし、変貌を遂げたのは周囲の人間全てだった。一変したその後は同じ人物とは思えないほどに冷酷だった。  そして伯爵が返り咲くと、別人のように遜った。そして今また鬼の形相に戻ろうとしている。
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