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「伯爵は好きで一人でいるんです。慣れてるんですよ」
「本当に好きでそうしてると思うのか? 牢で育ったから孤独に強いって?
それで愛情がなくても平気な生き物になれるって本気で思ってるんなら、お前はとんだボンクラだ」
「アスタロトさまは私に何が言いたいんです!」
ショウが語気を荒げると、アスタロトはきっぱり言い切った。
「伯爵を許すんだ」
ショウは目を剥いた。
「まっぴらです! そんな、心にもない!」
「伯爵はやりすぎた。どんな事情があれ、この領地に住む人は誰も伯爵を許さない。それを被害者である民衆に望むのは酷だ。だからお前だけでも伯爵を許してやれ」
「なんで私が」
「お前が天使だからだ」
アスタロトは静かに言った。
「伯爵を追い詰めたのは天なんだ。だから、お前が許せ」
ショウは真面目なアスタロトから目を逸らした。
「……そんなの私には関係ないです」
「あっそう、薄情者。とても天使とは思えないね」
「あなたこそこんなおせっかいな悪魔なんて聞いた事ないですよっ」
ショウは痛い処を突かれてくってかかった。
「大体、アスタロト様の推測はただの当てずっぽうです。あなたが人間心理に詳しいなら、ご自身だってもうちょっとうまく周囲と馴染めるんじゃないですかね?」
「あいにく俺は自分の事なんか考えたこともないね。人間心理に詳しいのは俺がおせっかいだからじゃなくて、悪魔の必須科目だからだ。奇跡頼みの天使と違って、悪魔は人の欲得につけこんだり、絡め手で不幸に陥れたり、人間の心の動きに精通している必要があるんだよっ」
「それなら私の悩みにも、その洞察力を使って頂いていいと思うんですけどね!」
「なんだって監督の俺が、研修生のお前にそこまで気を使ってやらねばならんのだ!」
……トントン。
危うく喧嘩になろうかというときに、ドアがノックされて二人は顔を見合わせた。
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