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アスタロトは顔をしかめて天井を仰いだ。
「こうなった経緯を説明しろ」
「兵士達は……以前から伯爵のやり方に反発していて、ずっと準備をしていたんです。でも伯爵は鋭くて俺たちの会合に感付いてはリーダー格の奴から理由をこじつけて牢にぶち込んだり殺したりで、うまく進まなくて……」
アスタロトに指示されただけで、兵士は自白剤を飲んだようにペラペラしゃべった。
「処刑はエスカレートするし、監視も厳重だったし、俺たち、ほとんど諦めかけていました。でも伯爵に恨みをもつ兵士は増える一方だったんです。
だって、城の兵士も召使も皆、領地の人間です。伯爵が虐殺すれば、その対象は俺たちにとってなんらかの知り合いであったり、血のつながりがあるんです。故郷で仲のよかった友達が厳しい罰にあったり、同じ城の中で働く仲間が些細な理由で殺されていくのはたまらなかった。
それでも伯爵が怖くて、作戦は立てるたび何度も先送りになりました。でもそれを待てない奴がいて」
「もしかして、俺たちがこの城に滞在した初めての晩に暗殺騒ぎがあったのは、お前たちの仲間か」
兵士はこくりと頷いた。
「彼はとても正義感が強くて、優しい男でした。みんながビクビクしながら暮らすのは間違いだって、自分が変えてやるんだって立ち向かっていきました。
彼はよく言ってたんです。伯爵は強い、でも一人だ。兵士の大多数を抱き込んでしまえば勝てると。いくら伯爵が凄くても、一人で武器庫の管理から全兵士の動向までは把握できない。全員で裏切れば大丈夫だって。
それがわかっていても、俺たちは伯爵の強さを恐れて、全員を説得することはできませんでした。だって毎日の剣の稽古でいかに伯爵が強いか見せつけられていたから。
でもそんな時、ショウ殿が伯爵に勝った。俺たちはびっくりしました。ショウ殿の剣の腕前にじゃない、伯爵も負けることがあるんだという驚きです。俺たちは可能性が開けたような気がしたんです」
「大変なことをしでかしたな、ショウ」
アスタロトは皮肉たっぷりにそう言うと、再び兵士に続きを促した。
「それでどうした。そろそろ裏で手を引いている奴のことも教えろ」
「裏って、アスタロトさ」
「しっ」
アスタロトはさらに強く兵士を睨んだ。
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