2-20 葛藤

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「城には兵の他に諜報員がいます。領地から自由にでられるのは彼らだけで、その代わりに伯爵に情報を報告する役目です。  諜報員は特権も報酬も大きいけど、その分、伯爵は彼らに厳しかった。裏付けが甘い報告なんてしたら半殺しになるときもある。  この前、伯爵に殴られた諜報員の手当てをしていたら、彼が急に内密な話があるって相談を持ち掛けてきたんです。  彼は俺たちに言いました。こんなひどい領主は他にはどこもいないって。特に隣の領主様は優しいと評判で、もし伯爵さえ倒せば、この土地もその領主さまの管轄になるからその方がいいんじゃないかって。俺たちはどうせ誰かに仕えなきゃならないんだし、それなら優しい領主様のほうがいい。彼はもし俺たちが伯爵を倒すつもりなら全面的に協力するって言いました」 「間違いない、私が助けた諜報員ですよ。伯爵にこっぴどく殴られて」 ショウは頭を抱えた。あの日、激高した伯爵の乱暴ぶりは凄まじかった。 「いい年をした男のプライドも自尊心も無視して、人前で罵倒したんです。諜報活動をしていればどうしたって他国の人間と知り合いになる。きっと前々から仄めかされてはいたんだろうけど、あれで決定的に寝返ったんだ」 アスタロトも眉間を押さえた。 「隣の領主にしてみれば笑いが止まらないだろうな。反逆が成功すれば自分の手を汚す事なく伯爵は死ぬし、うまくいかずに伯爵が勝っても、反逆した兵士は処分されて戦力は激減だ。そうなってから攻めれば間違いなく城は墜ちる。今頃、高見の見物だろう」 「だから! 結局、全部身からでたサビですよ! 暴虐の限りを尽くすから!」 「まあ否定はしない」 アスタロトは肩をすくめた。兵士は深くアスタロトの術に陥っているようで、つらつらと言葉を重ねた。 「諜報員を味方につけたら、驚くほど事は早く進みました。伯爵の動向も正確に流れて来るし、暗躍して仲間も増やしてくれた。もし反逆に失敗しても、隣の領主様が俺たちの面倒を見てくれるから心配するなって言ってくれて、ようやく警戒してた兵士も安心して仲間に加わって」 「そりゃ戦力にもなるし、伯爵の悪政の証言者にもなる、大事にするだろ」 あまりにも隣の領主の思うつぼなのがしゃくにさわり、アスタロトもツッコミを入れる。 「それに……最近はあんなに神経質だった伯爵が不思議なくらい上の空だったから、皆、これならうまくいくかもしれないって思い始めていました。アスタロト殿が話相手になられてから、深夜の巡回もなくなっていて、作戦を立てるのもスムーズだったし」 「アスタロトさまにも責任の一端はあるようですね」 ショウはすかさず言った。
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