2-20 葛藤

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「俺たちは死体の始末をしながら、牛や馬みたいに城の外へ追いやられる民衆を横目で見ていました。  見ながら皆、覚悟を決めました。  伯爵は鬼だ。伯爵が生きている限り、罪もない人がどんどん殺されていく。俺たちは迷うべきじゃなかった。迷ったから教会に集まった人たちは死んでしまった。すぐに行動しなきゃならない。今なら城の外の民衆達もきっと力になってくれる。  俺たちは、急きょ作戦を実行する事にしました。  幹部は拉致、伯爵は部屋ごと閉じ込めます。説得なんかしない。伯爵のどんないいわけも聞きたくない。伯爵の死体を隣の領主さまに献上すれば、それでこの地獄も終わりです。伯爵なんて死ねばいい……」 「はい、ごくろうさん」 アスタロトは兵士の肩を叩いた。兵士は途端にハッとして我に返った。 「あれ、いま私……ぼんやりしてましたか?」 「いや別に。緊張してるんだろう」  アスタロトがとぼけると、兵士はまだ術が残っているのか素直にそれを認めた。ショウが強引に話をまとめる。 「ありがとう、さっそく私たちは荷物をまとめて国に帰ることにします。君たちの親切は忘れない」 「きっと成功しますから、このドタバタが落ち着いたらまた遊びに来て下さい」 「君達も怪我のないように。私たちは大丈夫だから、皆に合流したほうがいい。早く行って」 兵士は一礼して部屋を去った。ドアが閉まる。アスタロトとショウはしばし沈黙した。口火を切ったのはアスタロトだった。 「さあ、どうするんだ?」 「どうするって……」 アスタロトの問いに、ショウは口ごもった。そして数秒間黙りこみ、あきらめたように口を開いた。 「仕方ないでじゃないですか、だって今回のクーデターは、私達もある程度、原因として絡んでる訳でしょう。言っときますけど私は伯爵を助けるなんて目茶苦茶不本意ですけどね、こういう事態を引き起こしたことに少しでも責任がある以上、見殺しにするのは気分が悪いんですよっ」 「伯爵を助けてやるわけだ」 「嫌々ですけどね!」 「見捨てないと思っていたよ、さすがは天使様だ」 アスタロトは不意討ちで微笑んだ。  ショウの仏頂面はそれにつられて歪んでしまう。アスタロトは笑うと途端にひどく優しい顔になるので調子が狂うのだ。だが、ショウはアスタロトのそんな笑顔を見るのが決して嫌いではなかった。
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