207人が本棚に入れています
本棚に追加
/344ページ
「馬鹿な、何言ってるんだお前は!」
伯爵はいきり立ったが、アスタロトは動じなかった。
「逃げるんだ、伯爵。大丈夫、俺たちが援護する」
「お前たちは状況がわかっているのか」
伯爵はほとんど叫んでいた。
「狂気の沙汰だ。間違いなくこの騒ぎの目的は私なんだ。敵は私を殺すために死に物狂いで向かってくる。私の傍にいれば標的になるだけだ。
私の言ってる意味がわかるなら、さっさと術でもなんでも使って城から出ろ。二人で、だ。私が一緒にいたらただじゃすまない」
「そういう訳にはいきません。あなたを見殺しにはできませんから」
ショウが腕を組んだまま横柄に言った。事態が二転三転したため、彼はもう地をさらけだす事にしたようだ。
「馬鹿な事を言っているのはあなたのほうですよ、私たちの助けを断ったら万に一つも助からないですよ。抜け道は悪くないが、城から脱出した後、他の領地まで逃げられますか? 無理でしょう」
「な……」
「いいですか? あなたの普段の行いがすこぶるよろしかったおかげで下級兵士が一丸となって反逆を企てたんです。この城には敵しかいない。
隣の領主が裏で糸を引いているとはいえ、ここまで彼らを追い詰めたのはあなた自身だ。領地内で見つかれば串刺しです。人を信用しない性格が見事に仇になりましたね」
「余計なお世話だ。善人ぶりたいならよそでやってくれ。私は誰にも貸しをつくるのはまっぴらだ」
燃えるような目で伯爵はショウを睨んだが、ショウも負けじと睨み返した。
「他でやるつもりはないですし、貸しと思わずとも結構です。私もやりたいようにやっているだけですから。あなたを助けます。その代りあなたには一からすべてやり直してもらう」
「やり⋯⋯直す」
伯爵はその言葉を口の中で反芻した。
最初のコメントを投稿しよう!