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2-22 窮地
兵士の反逆が始まったのは、祭りの後、真夜中過ぎだった。
伯爵が就寝のため部屋に入ると、兵士たちは物音を建てないように細心の注意を払ってバリケードを作った。窓から逃げ出すには高さがありすぎるし、挑んだとしても正面に配置した鉄砲隊に狙い撃ちされる。
次いで召使を避難させた。下級兵士は数は多い。一斉に動くことで有無を言わせず大ぜいを誘導できた。
状況を整えて兵士達は大砲を構えた。
伯爵の部屋に狙いを定める。
彼らは喜びの花火を打ち上げるように、伯爵の部屋に砲弾を撃ち込んだ。続けて部屋を支える支柱を破壊する。大砲が火を噴くたびにこの世の終わりのような地鳴りがした。
多少時間はかかったが、あらん限りの砲弾を浴びせて、伯爵の部屋を含む城の中心部は完全に瓦礫の山になった。
兵士達は自由を確信して歓喜の声を上げた。
彼らが成すべきことはもう、石の下で潰れた伯爵の遺体を確認するだけだった。
「夜が明けたな、完全に」
アスタロトは忌々し気に呟いた。
外を透視すると、空が青く晴れ渡っているのが見える。隙ができるどころか、庭を歩く兵士の数は増える一方だった。
悪魔は視力だけでなく聴力も優れている。耳を澄ますと兵士達は瓦礫の下から伯爵の死体が見つからないので焦っているようだった。
伯爵の武勇が凄まじかっただけに、死体を見届けない限り絶対の安心はない。彼らは建物だけでなく庭まで範囲を広げて捜し始めていた。おかげで人目が切れず、ここから抜け出すことができない。
東屋の下にある隠し部屋は狭くて、三人で潜んでいるのは苦痛でしかなかった。ちょっと手足を伸ばすと互いの体にくっついてしまう。
窮屈なだけならまだしも、次第に息が苦しくなっていた。
通気の乏しい石の壁に阻まれ、あきらかに酸素が足りない。もちろん、この抜け道が普通に機能していれば、こんな苛酷な状態にはならないだろう。しかし、先の爆発で抜け道の先が潰れてしまって空気が流れない。
アスタロトは頭上すれすれの天井に手を触れた。案の定、先ほどまでは冷え切っていた石肌がうっすらと暖まっている。日が昇り始めて気温が上がったのだ。傍らのショウは顔色一つ変えていないが、伯爵はじっとり汗をかいて辛そうだった。人間にこの環境は厳しいのだ。
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