2-23 別れ

1/4

207人が本棚に入れています
本棚に追加
/345ページ

2-23 別れ

 死体が見つからない。  もうすでに城が落ちてから、半日が経とうとしていた。  太陽は真上にある。兵士達は不眠不休で瓦礫の山をつき崩し、とりつかれたように伯爵の遺体を捜したが、依然として痕跡すら見つけられずにいた。  砲撃の寸前まで伯爵が自室にいたことは、窓から外を伺った伯爵の姿で確認されている。そしてその直後に城ごと崩したのだから逃げられるはずがない。  だが実際問題、血痕一つ発見できないのだ。焦りは募るばかりだった。  兵士たちは伯爵を不死身の化け物のように思っている。こうしている間にも伯爵が背後から迫ってくる気がして、祝杯どころではなかった。  反逆から城の門は完全に封鎖している。開門して橋を渡さない限り、捜索場所は城内に限られる。だから、兵士達はこの門だけは厳重に守っていた。 「だから結局、この橋だ。これをどうにかしなくちゃ脱出は不可能だ」  蒸し風呂のような暑さの隠し部屋で、アスタロトが口火を切った。  兵士の状況をみて行動を起こすつもりだったが、隠し部屋の状態があまりにも悪く、それまで待てなくなったのだ。  気温が異常に上がったのと、極端な酸素不足。このままあと数時間たてば間違いなく意識を失うだろう。アスタロトは伯爵の体力が残っているうちに、攻めに転じることにした。 「反則もいいところだが、非常事態だ、術を使う。三人で出ていくのは目立つから不可。まず城内の兵士達を幻術で攪乱しよう。ここからでも城の中ぐらいはどうにか調整できる」 「攪乱? 何をどうするんです」 ショウは正座をしたまま、心配そうにアスタロトに尋ねた。 「これだ」 アスタロトは目を閉じて、早口で呪文を唱えた。 言い終わるか否かで、鬱蒼とした亡霊達の姿が浮き出てきた。その姿は明度とは関係ないらしく伯爵にもよく見えた。相変わらずリアルである。
/345ページ

最初のコメントを投稿しよう!

207人が本棚に入れています
本棚に追加