2-23 別れ

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 ショウも伯爵もぎょっとしたが、アスタロトにしてみれば、今までにこの城の中でさんざん愚痴を聞いて親しくなった幽霊達だ。  ここに現れた者だけでも壮絶な姿と数だったが、術の適用範囲を広げたため、一瞬で城中の幽霊が実体化している。 「好きに騒いでいいぞ。今日はカーニバルだ」  幽霊たちの悲鳴と嬌声が渦巻いた。アスタロトは手を唇によせ、歯で乱暴に生爪を挽きはがした。その血まみれの爪が、真っ黒な鳥に姿を変える。 「この城の封印を全て解け」 鳥は瞬時に姿を消した。ショウは指で三角の窓を作って透視した。さっきはうっかり羽を晒してしまったが、さすがに天使の恰好ではいられないので人間の姿に戻している。 「封印なんてあったんですか」 「あるある、山のようにある。先々代の武勇は相当なものだったらしくて、伯爵のじいさんに憑いていた怨念があちこちで封印されてるんだ。  この封印の作業は信心深い先代がやったようだな、だから余計に祈りに傾いていったのかもしれん。とにかく、この封印をとけば威力と数は兵士以上、もの凄い霊の吹き溜まりだ」 「おや、ほんとだ。半端じゃない」  ショウはほとんど感心した声を出した。アスタロトの使い魔がみるみる城内の封印を解いていく。その度、黒雲のような怨念がもくもくと湧き出してくる。 「うーん、凄いですね。普通の神経の持ち主なら、こんな城にはそういられないでしょう。さっそく霊現象が起き始めてます」  透視を進めていくと、城のあちこちでボルターガイストや、幻覚が始まっていた。ただでさえ脅えていた兵士たちは阿鼻叫喚である。  武器を放り投げて外に飛び出す者が続出した。逃げ惑う兵士だが、歩けば当たるほどの幽霊の数に恐怖して門に向かって走りだした。城内を透視していたアスタロトは、満足そうにほくそ笑んだ。 「よし、こうなれば時間の問題だ。遠からず自主的に開門するだろう。さて、伯爵」 唐突に名前を呼ばれて、伯爵は顔を向けた。ショウが羽を見せてから、極端に寡黙になっていたのだ。 「ちょっと貸してもらうぞ」 アスタロトは右手で自分の顔を撫でた。次いでその手のひらから青い炎を浮き上がらせる。室内にぼうっと明るさが灯った。 「私の顔だ」 伯爵がぎょっとして目の前の顔をまじまじと見つめた。
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