2-23 別れ

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 武装した敵が相手なら、どの兵士達もかなり冷静に対処できるように訓練されている。だが、こういった得体の知れない怨霊相手では経験を生かしようがない。  数々の修羅場を乗り切ってきた伯爵ですら、はじめてゾンビを見たときには心臓が止まりそうになった。普通の兵士なら卒倒しかねない。加えて教会が壊れ、伯爵が行方不明という異常事態である。恐怖はタチの悪い疫病のように伝染していた。  幽霊に脅された兵士の中には果敢に立ち向かおうとした者もいたが、物理的攻撃が全く役に立たず、絶望していた。 「そろそろ開門になるだろう」  伯爵が予測してから数分後、脅えた兵士の一部が暴走して、自ら城の外へ橋を架けた。もちろん止める者はいたが、その勢いに太刀打ちできず、振り払われていた。  兵士たちは命からがら橋を渡る。あまりに大勢が走って逃げたので、堅牢な橋がぐらぐら揺れた。  アスタロトは隠し部屋の天井にあたる石をつかんでずらした。とてつもない重量だったが、アスタロトは苦も無くその石をゴトっと抜き取った。  ちょうど一人分の体が通れるぐらいの穴が開く。アスタロトは伸びあがって東屋の床に這い上がった。石の隙間から射るような日差しが差し込んでくる。  伯爵はあまりにも眩しくて、アスタロトのシルエットだけしか見ることができなかった。 「それじゃ、いってくる」 アスタロトは一言、そう言って出ていった。
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