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ショウはいっそうスピードを上げた。
伯爵はもう何も語らなかった。ただ伯爵の内側では、静かな痛みがふつふつと沸き上がっていた。
伯爵は気付いたのだ。
アスタロトとショウが伯爵の封印していた情を揺さぶり覚ましたように、感情と言うかたちのないものが、自分以外の人の中にも燃えていることを知ったのだ。
それはさっき城下ですれ違った民衆の中にも、今まで伯爵が無造作に処刑してきた人たちの中にも、その家族にも、召使にも、反乱をおこした兵士にも等しく存在している。
そしてあの教会の中にいた人たちにも。
「⋯⋯私は、殺し過ぎたんだな⋯⋯」
伯爵はショウが聞き取れないくらい微かに呟いた。
―――――もし、アスタロトならどうするだろう。
間違え続けてはいけないと言ったアスタロトなら、どんな道を選ぶだろう。
花びらだけが伯爵の心の嵐を知るように吹き荒れていた。
馬はショウの力を借りて信じられない速さで森を突っ切っていく。
そして、木々の切れ間から視界がひろがり、突き抜けた森の向こうに国境が見え始めていた。
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