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1-4 人間界
ごろん。
克己は上手く寝つけず、何度目かの寝返りをうった。雑用に追われて体は疲れているはずだが、頭の芯が冴えている。
「うーん……」
布団をはいで大の字になる。こちらに来るまで都会暮しだったため、克己はクーラーのない生活にまだ慣れないでいる。
何故だか胸がざわざわして、全然眠くなかった。とはいえ今さら起きるのもかったるい。克己は目を閉じたまま、あっちへコロコロこっちへコロコロ転がっている。
くすっ。
闇の中でおこる微かな空気の動き。思わず起き上がると、からかう声がした。
「相変わらず寝相が悪いな。そんなに転がってると目が回るぞ、克己」
「うっせーな、余計なお世話だっ……て、あれ?」
克己は激しくまばたきをした。目を細めて部屋の隅を凝視する。
おぼろげながら人物の輪郭が浮かび上がった。見間違うはずもない。
「たっ! 太郎か!?」
「明かりがないとろくに物も見えんのか。不便だな、人間は」
「その口の悪さ、傲慢な雰囲気! 絶対太郎で間違いない!」
田舎の夜はあまりにも暗い。電気は通っていても外灯がないのだ。まして克己の家は、隣の家に至るまで何十メートルも離れている寂れた一軒家である。
「火を」
悪魔の手のひらに、ぽおっ……っと青い炎が揺らぐ。そしてそれと同時に蝋のように白く美しい、見覚えのある横顔がはっきりと見えた。
「太郎……」
「久しぶりだな、克己」
少しはにかんで、悪魔は笑った。克己の瞳に待ち焦がれた悪魔の姿が写っていた。
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