2-26 エピローグ

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 あっちを片付ければこっちが崩れ、こっちを寄せれば一角が雪崩れる。部屋の片付けは全く進まない。  とにかく道具が多すぎるのだ。  アスタロトはヤケ気味に呪文を唱えた。床に落ちていた布を宙に投げると、落ちた部分に座り心地のよさそうなゴミのない床が出現する。アスタロトはどっかりとあぐらをかいて、汗を拭った。 「伯爵、いまごろどうしているんでしょうねえ」  ショウは、ボツリと言った。合格と決まった研修の成果はともかく、人間界に残された伯爵の動静は気がかりだった。アスタロトはこちらに戻ってからというもの、伯爵のはの字も口にしない。だからショウは一人でやきもきしていて、何かというと強引に話題を引っ張り出した。 「境界を越えたんだから、伯爵の顔を知る者はいないし、普通に生活できるとは思うんですけど、どうも心配なんですよね。あの人は今まで大勢の召使いに世話されていたわけで、相当に気位も高いですし、うまく庶民の生活に溶け込めるかというと難しいような⋯⋯」 「ショウ!」 思いがけない強い口調で、アスタロトが遮った。いつもそうだった。アスタロトはこちらに来てから、明らかにその話題になると不機嫌になる。 「伯爵のことを詮素するな、メシの支度に集中しろ」 「想像してるだけじゃないですか」 「余計なことだ」 「どうしてです」 「研修がおわった以上、個人の勝手で人間界に関わってはいけない。規約に禁止事項として書いてあっただろう。深入りするな」 頭ごなしに言われて、さすがのショウも不満そうに表情を最らせた。 「⋯⋯伯爵にあんなに親切だったくせに、薄情なんですね」 アスタロトは答えず、聞こえないふりで手元の魔法道具をいじくっていた。ショウは腹立ち紛れに乱暴に料理を作った。それでもアスタロトは無視を決め込んでいる。  そういうつもりならもういい。ショウは、ひそかに決意した。  ……伯爵のデータを検索してみよう。
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