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ショウは軽く頭を振った。
伯爵は人間界にいない。コンピューターはそう告げている。でも、そんなことがあるだろうか。
ショウは念を入れてもう一度同じ作業をしてみた。だが、結果は同じだった。伯爵は存在していない。
嫌な感じがひたひたと体の中に溢れてくる。ショウは無意識にコンピュータの電源を切っていた。
部屋は沈黙に深く沈む。考えたくないことだった。だが、この検索にひっかからないという意味は、たった一つの結論をはじきだしてしまう。
「だから、よせっていったのに」
ショウは驚いてびくっと体を反らした。足音は全くしなかったはずなのに、アスタロトがドアの所に立っていた。
「⋯⋯どういうことなんでしょう」
アスタロトはノロノロした動作で魔法衣の前を合わせた。人気のない校舎はひどく冷える。
「わかってるだろう、人間界に該当データがないってことは。死んだって意味だよ」
ショウは息が止まりそうになった。アスタロトは疲れた顔で、椅子を引いてくると、ショウの前に座った。
「なぜです」
ショウは叫ぶように尋ねた。アスタロトは頬杖をついたまま俯いている。子供に隠し事がバレて、言い訳を探す大人みたいだ。
ショウは納得できなかった。言い訳でなく本当を知りたかった。だから衝動のままに捲し立てる。
「伯爵は安全な所に避難させたつもりです。危険には充分注意しました。あの人は人が変わったようにおとなしくしていたし、それに何より、あの地下の隠れ部屋で、ちゃんとやり直す気持ちになっていたじゃないですか。そうでしょう? なんで死ぬんです、わかりませんよそんなの!」
「決まってたことなんだ!」
アスタロトは机を叩いた。拳が赤くなる。
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