2-26 エピローグ

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 重く沈んだ部屋の空気を払拭するように、涼やかな風が流れ込んでくる。  その冷たさはいっそ心地よかった。ショウは目を細めて窓の向こうの桜並木を見つめた。  ここにも白い花びらが泡のように揺れている。手すりに身を乗り出しているアスタロトの髪が風になびいている。  静かだった。ショウはため息をついた。 「アスタロトさまにもそんな友人がいるんですか」 「……昔、そんなお節介が嬉しかったから、俺もいつかそうしようと」 アスタロトはそのたった一言さえ言い過ぎたように口を閉ざした。そして無理矢理話を切り替えた。 「明日は朝から来い。空間魔法の続きをやろう」 「まだ私、手伝うんですか?」 「勿論だ。今回の件、ジュヌーンに戻るなり教授たちに呼ばれて、出しゃばり過ぎだって滅茶苦茶怒られたんだ。教授たちに『誰の研修だ』と。『お前は監督で見守るだけのはずだろうが』と言われ放題のうえ、ペナルティで大量の新魔法を提出する羽目になった」 「じゃ、やたら忙しいのはそのせいだったんですか」 「そうだ。だからせめて手伝え」 アスタロトは窓辺に立ったまま、振り向かずに言った。 「でもまあ……もし天気が良ければ、魔法はちょっと一休みして花見でもするか」 「え」 「今ならろくに人もいないし、たまにはそういうのもいいだろう」 もしかすると、これはアスタロトなりの慰めだろうか。  ショウはアスタロトの後ろ姿を見つめながら、ふとそう思った。今はまだ、あの領地の白い花に似た桜の下を歩くのはつらいけれど。 「⋯⋯そうですね。それじゃお弁当作ります」 「甘いのも」 「いいですよ。お好きなデザートをたくさん用意します」 ショウが返事をすると、ようやくアスタロトが振り向いて微笑んだ。  微かに胸が痛む。  だが、その痛みとともにその存在が、ショウには切ないほど愛しく感じられた。 【 研修編:完 】
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