3章の前に…天使の独り言

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3章の前に…天使の独り言

 正直、自分でもわからない。  なぜ大天使の自分がこんなド田舎のあぜ道を一人で歩くはめに陥ったのか。そもそもなんだってこんな頻繁に人間界に入り浸っているのか。    今度の休み、芳賀屋に泊まるけど、お前も来るだろ?  大魔王様のお誘いは誘いとみせかけて否とは言わせないのが前提だ。  ずるい。これで用事があるなんて断ったら、みるみる不機嫌になる。  しかも誘いはいつも突然だ。連絡がきたら私は即座に取り組むくむはずだった仕事や資料の作成、上司との付き合いを調整して芳賀屋に向かう。  でもそこまでして芳賀家に来ても、やってることは寝るか食うか風呂。建設的な事は何一つしていない。嘆かわしいにもほどがある。  そもそもいつだって大魔王様は行き当たりばったりの無計画で私を振り回すのだ。  この腐れ縁は実に長い。  大魔王様との付き合いは、魔天学院から数えて数百年になる。天使と悪魔では文字通り住む世界が違うため、学院を離れたら疎遠になるのが普通だ。  実際、私もそうなると思っていた。体質的に天使が魔界に、魔物が天界に直接出入りすることはできないからだ。    大魔王様が魔天学院を卒院した時、それまでずっと家政婦のように世話をしていた私はありあまる時間を持て余した。  こんなにヒマだったっけ?   課題はあっという間に片付くし、部屋はいつもきれいだ。全て淡々と予定通りに進んでいく。大魔王様絡みの見当違いな嫉みに悩まされることも、生活をかき乱されることもない。私は本来の堅実なペースに戻り、だいぶ遅れてやってきた普通の学生生活を謳歌した。  なのにだ。  はじめはおずおずと、次第に頻繁にかけられる声。 「最近、元気がないみたいだけど大丈夫?」  なんでだ。  私はすこぶる健康だったし成績も上位をキープしている。時間があり余り過ぎて保存食まで作りだした。果実酒に味噌に干し野菜。自室の貯蔵庫はぎゅうぎゅうになろうとしている。  しばらくは同期と外食三昧だったが、その頃には食事に誘われても気乗りしなくなっていた。食べて騒ぐのは楽しいが、だからといってそれだけだ。次第にはしゃぐそぶりをするだけで疲れるようになった。それに保存食が増えるばかりで片付かない。  その夜もあまりに暇だったのでもやしの根っこをチマチマともいでいた。  その時だ。空間に違和感を感じたと思ったら目の前に大魔王様が出現した。
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