3章の前に…天使の独り言

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 この関係はこれからも続くのか。  大魔王様の意思表示に私はうんざりするはずだった。なにしろこの腐れ縁は面倒が過ぎる。唐突で注文の多い相手に合わせるのは苦難でしかない。  なのにこの「うまいなー」は私の理性を破壊し、即座に「いつでもどうぞ」と返事をしていた。私はせっかく途切れかけた縁を自ら繋いでしまったのだ。寝ぼけているのかと自分に問い正したい。  大魔王様は言葉通り、それからちょくちょく私の部屋に現れた。  事前に連絡が来ることもあったけれど、やっぱり突然の方が圧倒的に多かった。  そうこうしている間に大魔王様はめきめき出世して、異例のスピードで魔王になり、大魔王になり、四大魔王になった。  私も学院を出て天界に戻った。さすがにもう無理だろうと思ったが、大魔王様はめげずに出没した。  天界に直に出現するとなると強烈な保護魔法が必要になる。大魔王様は独自に新魔法を編み出しては神出鬼没で登場した。だがやはり空間差が甚だしく、一回失敗して大惨事になってからは人間界で落ち合うのが定番になった。  お互いもはや学生ではなかったから人間界では自由に羽を伸ばせた。屋敷を所有していた事もあるし、ホテルを定宿にしていた事もある。  とはいえ長く同じ場所には通えない。私たちは人間界には異質な存在だから、顔を覚えられるわけにはいかないのだ。だから会うたび、旅人のように場所を変える。いくら人間界が好きでもそれだけはままならない。仕方なく最終的にはジュヌーンに別荘を持つまでになった。  だが、芳賀屋は違った。  それはそうだ。今回ばかりは大魔王様は料理が目的じゃない、克己に会いに来ているのだから。  足早なので、あっという間に村の端っこまで歩いてしまった。  田んぼ道の先に小さな祠が光って見える。私は手をかざすと瞬間移動した。この祠は村を守る魔物の住処に繋がっている。  大魔王様に対する説明のつかない問いを私は常々考えていた。でも一向に答えが出ないため、途中から考える事を放棄して心の底に沈めていた。  なのにこのやっかいな疑問が芳賀屋にくるたびに浮上するのだ。
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