3章の前に…天使の独り言

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 パカの答えに私はぎくりとした。  愛。  正直、自分でも『まさか』ではなく『もしや』の想いがあった。ただその想いがよぎるたびに全力で打ち消してきたのだ。  大魔王様に対する度の過ぎた奉仕は特別を意味し、その特別には普通、理由が付随する。  しかし天使も悪魔も人間みたいに容易に感情に溺れたりしない。だからきっとこれは私の考え違いのはずだ。だが人生相談にこなれた第三者までも同じ結論に至るのなら、これはもう決定事項ではないのか。 「……この愛っていうのはつまり」 覚悟を決めて聞き返すとパカはフルフルと長い首を揺らした。 「お」 「おっ!?」  あまりに食いつき気味でパカの返事が間に合わない。  私は焦りを息とともに呑み下した。パカは焦らすように頭のアホ毛を押さえるという無駄な動作をし、おもむろに口を開いた。 「ズバリ、おっ母さんパカ。ショウ殿はタロさんのおっ母さんポジね。御世話役を長くしてるうちに保護者目線になったパカよ。そこに新たな克己殿という世話役が登場したパカ。長年苦労してきたショウ殿にしてみたら姑根性が働いて当然パカ」 「おっ母さん……」 じっと手をみる。あんな我儘な魔物を生んだ覚えはないが、確かに私のやってることは子育てに似通っているかもしれない。とにかく大魔王様の生活と健康を口やかましく心配し、御飯を食べさせまくっている。しかし母なる愛から発生した感情にしては、ずいぶん狭量ではないか。 「まがりなりにも天使なのに、こんな風に克己に対して意地悪く思うなんて私は未熟なんでしょうか。特別に性格が醜いとか、心が狭いとか……」 「あるあるパカパカよ」 「あるパカ……」  呟きながら、この問題が解決したような、その実まったく何も変わっていないような気がする。結局私はこれからどうすればいいんだろう。その迷いを見抜いたようにパカは前足で私の肩を叩いた。
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