3章の前に…天使の独り言

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「もっと気楽にするパカ。手間のかかる子ほど可愛いのはわかるけど、克己殿はその大変さを手伝ってくれる良い子パカ。その分、ショウ殿は自由にすればいいパカ」 「そうですか……そうですよね」  私は、パカに見送られて田舎道に戻った。  陽気にした方がいいというアドバイスで、パカは件の流行りの歌を熱唱してくれたが、全く気は晴れなかった。  すでに夜もとっぷり暮れて辺りは闇に沈んでいた。  人間界にもいろんな場所がある。最近は都会に降臨するとイルミネーションがチカチカして昼と見まごうほど明るい。  だがここは昔ながらの風景で、月だけが頼りの草っぱらだ。遠くの防風林が影絵のように揺れて、その先に芳賀屋のとんがり屋根がシルエットで覗いている。瞬間移動すればすぐだが、急ぐ気分になれなくて歩いた。  私だってわかってる。克己は悪くないんだ。嫌いじゃないし。  豆腐もだ。美味いし。  歩きながらパカの言葉を反芻する。言ってることは一理あるが、やっぱり納得していなかった。自分の気持ちは自分が一番知っている。結局、認めるか認めないかだけのことだ。 「何してるんだ」  突然、上から声がした。バサバサと空気を揺るがすような羽音とともに大魔王様が降り立った。  闇の中なのに青白い顔をして、目の前の大魔王様は不機嫌な表情を隠せていなかった。  私は驚かなかった。  心のどこかで追いかけてくるのを待っていた。そして、来ると思っていたからだ。胸のあたりに不具合な感覚が走ったが、私はしれっと返事をした。 「何って散歩ですよ。月がきれいですから」 「お前はそんなロマンチストじゃないだろう」 即座に言われる。さすがに長い付き合いだけあって私のことを良く知っているようだ。 「大魔王様こそ何してるんですか。人間界なのに翼までだして。いけませんよ、いくらこの界隈がのんびりしてるからって見られたら事です」 わざと揶揄うように言った。 「お前を探してたに決まってる」  大魔王様は怒っていた。怒るとアメジスト色の瞳がインクを落としたような濃い紫に染まる。今日は言葉も態度も馬鹿正直で反応に困る。
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