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「上級天使といえば激務だからな」
「ええ」
わかってるんじゃないか。
月を見上げたまま大魔王様は続けた。
「序列の厳しい天界の中間管理職、板挟みの業務は過酷だと聞いている。しかもお前はクソ真面目だ。昔から様子を見にいくたび、優秀でないと価値がないみたいに働き続ける。だから俺がお前の有給を使ってやらなきゃと思って」
労っているのかと思いきや身勝手な結論で、私は憮然とした。
「余計なお世話です」
「ショウ、休養は大事だ」
急に真面目に言う。こんな時ばかりちゃんと心配そうな顔をするなんて卑怯だ。
大体この言い方はない。自分が遊びたくて勝手に呼んでるだけのくせに、まるで私のために大魔王様が会いにきてくれてたみたいじゃないか。
「ご心配なく」
「可愛くない。研修生の頃はもうちょっと素直だった」
大魔王様はほとんど止まっていた足を速めた。
髪が風で翻る。私はまた見惚れる。
駄目だ。
これだけのやり取りで、パカがおっ母さんと表現した感情の範疇を軽々と超えてしまう。
心配されていたことがやたら嬉しくて無表情が崩れそうだとか、この背中に憧れてやまないんだとか。
そして、本当は私にだけに惜しみなく言われる我儘に、堪らない優越を感じているだなんて。
「置いてくぞ」
振り返った大魔王様は、さっきの真面目な発言に照れて、さらにぶっきら棒だった。
その不器用さを私の脳は愛しさに変換する。
頭上の満月は煌々と道を照らしていた。
爪の先のように薄い三日月、半月、下弦の月、そしてまん丸の月。形をかえても月は月でしかない。
私は諦める。この特殊な感情の呼び名を言い繕うことの無意味さを。
結局、これは恋なんだと。
はじめからきっとずっとそうだったんだと。
【天使の独り言:完】
イラスト:たまこさん https://estar.jp/pictures/26123797
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