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克己が笑顔を見せたので、悪魔はホッとして先を続けた。
「遠慮せず請求しろ。実はここに世話になりたいのは私一人ではないんだ。しかも私と違って我儘で扱いにくい。タダで世話になるわけにはいかん」
私と違って?と、ツッコミを入れたいのはやまやまだったが、大事な泊り客である。克己はきょろきょろと辺りを見回した。
見慣れない人物が柱に寄りかかっている。悪魔と克己の感動の再会に入り込むことができず、存在を無視されていた天使である。
「……あのー……いらっしゃいませ。お客様はどういった……」
「この姿を見てわからないのか」
間抜けと言わんばかりに天使は白い翼を広げた。重なりあった純白の羽根が光り輝き、ボロい茶の間にとてつもない違和感をかもしだした。
……て、天使の割に、ちょっとおっかなくない……?
慈愛のイメージが大きく崩れる冷ややかな眼差し。克己はおどおどと天使を見上げた。悪魔が咳払いすると、ようやく天使は儀礼的な微笑を浮かべた。
「はじめまして、私は天界の者だ。今回こちらで重要な仕事をせねばならない。ぜひ克己殿には協力を頼む」
「あ……はあ」
笑顔だが全然目が笑っていない。ぎこちない天使と克己の間に悪魔がしゃしゃり出て、パン、と手を打った。
「よーし、これで話は決まりだ。とりあえず今夜は遅い、仕事は明日にしよう。ところで克己、夜分すまないが何か食べるものはないか」
悪魔は強引にその場を収め、勝手知ったる台所にずかずかと踏み込んだ。
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