3-1 魔界

3/11
前へ
/348ページ
次へ
 だが、しかし。  よりにもよって天地会談である。最高実力者ばかりだ、眼力が違う。  この世界でダミーを見抜くことができるとしたらこの9人、その9人の中にダミーを行かせるわけにはいかない。もし万が一偽物だとバレたら最悪の事態に陥るだろう。アスタロトが失脚すれば、せっかく秘書として就職したのに即失業だ。  ……まずい。それだけ何としても回避しなくては!  だからルクルは決断した。  大魔王が重要会議を体調不良で欠席すれば、すぐさま天地両世界に情報が拡散する。実力社会の魔界で体が弱まったと認識されるのは危険を孕むが、最高会議で偽物をだしてバレるよりは全然マシである。  ルクルは偽物を寝かしつけ、病欠の連絡をした。  判断に間違いはないと確信していたが、ルクルの心臓はキリキリと痛んだ。しかし悩むヒマもなかった。  一報後、たちまちお見舞いの嵐である。  慈愛あふれる六大天使などはいたく同情し、直接治癒魔法をかけに伺うなどとはりきりだして慄然とした。丁重に辞退したが、それが駄目なら皆で祈りを捧げるなどと盛り上がり、何とかそれを押しとどめるのに滝のような冷や汗をかいた。  勿論、大魔王たちも親切面で見舞いを希望してきた。こちらは天使より遠慮がない。いくら固辞してもマイペースに部屋に入ろうとする。ルクルはドアの前に立ち、ひたすらご遠慮願った。   一刻も早く城に戻りたかったが、魔王たちが魔界までの帰路を同行すると言い出したため、角を立てないようにかわすのにほとほと疲れた。  やはり四大魔王ともなると仮病を使うのもおおごとになる。ルクルが身の細る思いで事を乗り切った三日後、アスタロトはひょっこり戻ってきた。そして事の顛末を聞くと 「なーんだ、せっかく作った偽物、出さなかったのか。自信作だったのに」 と呑気にぬかしたのである。ルクルの報告もてんで気のない様子で 「ふーん、大儀だったな」 と流し、魔法塔に行ってしまった。ちなみに魔法塔はアスタロトが魔法の鍛錬ために建てた専門の城で、要は規模の大きい趣味部屋である。  氷の女と言われ、取り乱すことなど皆無のルクルであるが、さすがにコメカミのあたりで何かがぶちっと切れた気がした。  冗談じゃないわよ! 偉そうにアイツ、何様だー!  しかもアスタロト不調のニュースは魔界全域に広がり、すでに城には大広間にも入りきらないほどの見舞いの品が届いている。
/348ページ

最初のコメントを投稿しよう!

207人が本棚に入れています
本棚に追加