3-1 魔界

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「お忙しいところ失礼致します。アスタロト様にお繋ぎ頂けないでしょうか」  間近で見るとすっきりとした輪郭で涼し気な顔立ちが美しい。ルクルは咳払いした。 「昨日は失礼いたしました。アスタロト様はその」  今日は昨日と違って本人がいる。いるにはいるので会う事もできるわけだが。ルクルは激しく思考する。 「大魔王様、まだ体調がすぐれないのでしょうか」 「はあ……いえ、そんな事はないんですけれど」  かみつかんばかりの天使とは対照的に、ルクルは歯切れが悪い。自分の説明すらろくに聞いてくれなかったアスタロトが、うまく仮病の設定を前提に話をしてくれるだろうか。最悪、病気?何のことだなどと口走ったりしないだろうか。あまりにもありえる。ルクルはコメカミを抑える。 「秘書殿、大魔王様に私の名前を告げて頂ければそれで良いのです。私は大魔王さまとは旧知の間柄、ショウ・マキとお伝え願えればすぐお取次ぎは叶うはずです。それとも大魔王様はお話ができないほど具合が悪いのでしょうか。はぐらかさずにお答え頂きたい」  躊躇するルクルに天使は言った。口調は穏便だが、ありあまるほどに高圧的である。 「ええとですね、アスタロトさまは」 仕方なくルクルは続けた。どうせいつまでも隠せるわけじゃないのだ。 「アスタロト様は魔界に戻ってゆっくりされたのがよかったのか、すっかりお元気でいらっしゃいます。あまりに元気で力があり余っておられるのか今朝などさっそく魔法塔におこもりされて、鍛錬をなさっておいでです」 「ほう、ならばお取次ぎには問題ないはず」 「ええ、ですが魔法塔においでになる時は基本的にお声がけしない事になっております。旧知の間柄であればそれこそご存じと思いますが、鍛錬中のアスタロト様は、お声をかけて集中が乱れるのを何よりお嫌いですし、魔法を中断すると危険を伴う場合がございます。後ほどのご連絡でよろしいでしょうか」 こういえば普通は引き下がる。なによりこちらは四大魔王、相手は天使はただの上級天使で格付けには天と地ほどの差がある。  折り返しで連絡を繋ぐ前に、アスタロトと病欠云々の打合せもできるだろう。ルクルはお得意の作り笑顔になった。
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