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しかし、ルクルの返事の途中から天使の顔がみるみる険しくなった。
「魔法塔にも通信機があったはずですよね」
怒りのこもった低い声で天使は言った。
「秘書殿、昨日まで倒れて寝込んでいた人を魔法の練習に行かせるとはどういうおつもりだ。体力のない大魔王様が無茶をして体調を崩したらあなたの責任ですよ。曲がりなりにもアスタロト大公爵家の第一秘書であるなら、主を思って止めるがお役目、こんなところでのんびり事務作業をしている場合ではあるまい!」
天使は強い口調で言い切り、映像が途切れた。おそらく魔法塔直通の通信機に切り替えたと思われる。
ルクルは天使の高飛車な物言いに怒りの握りこぶしを震わせた。
……何なのあの天使、えっっらそうに!!
しかも魔法塔の直通ナンバーまで知ってるってどういうこと?! だったらさっさとそっちにかけたらいいじゃない! 学生時代からの知り合いだかなんだか知らないけどこの私にマウントとりやがるとは! がー! むかつくー!
「もういい。どうなっても私の知った事じゃないし!」
やけっぱちでルクルは部屋をでた。ここ数日、身を粉にして働いたのだ。昼は好きなものを存分に食べることにした。
さて魔法塔。
この塔はまるで地面から太い煙突がにょっきり生えているような筒状の建物である。しかしその内部は実に広大だった。
魔法の研究では第一人者とされるアスタロトが、自ら作成した建造物である。数万冊に及ぶ魔法書に加え、魔法に使用する道具一式、様々な魔法薬、その材料が部屋ごとに収納されている。
中に自由に出入りできるのはアスタロトのみ。解除魔法で開門すれば異空間が広がっている。この塔の内部を制御できるのは空間魔法をかけたアスタロト本人だけであり、外部の者がうかつに侵入しようものなら半永久的に出られない。
さて、噂のアスタロトが毎日の習慣である基礎練習をやっていると通信機が緊急発信音を鳴らした。
おやおや。
悪魔は落ち着いた様子で指を鳴らすと、受信に切り替えた。一言二言では終わらないと見込んで魔法の杖を置き、ソファーに座る。ついでにサイドテーブルの壺から白い砂を掴むと呪文を唱えて部屋にばらまいた。
そうこうしている間にぎゅいんと空間の一部が歪み、またしてもお馴染みの天使の姿が現れる。
「大魔王様っ!! ご無事ですかっ!」
そのあまりの剣幕にアスタロトは苦笑した。
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