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「どうしたんだ、血相変えて」
「あああ、大魔王様、汗だくじゃないですか。しかもこんなところで座り込んで……だから病み上がりに鍛錬なんて早すぎるって言ったんだ、あの無神経な秘書は使い物にならない。大丈夫ですか?!」
「汗をかいてるのは基礎訓練をしていたからだし、座ったのはお前と話すのに立っているのも何だから腰掛けたまでのことだ」
「でも」
「今こっちの空間に魔法をかけて調節した。受信エリアから出てきて大丈夫だ。この部屋の中なら自由に動ける。こっちにこい」
アスタロトはショウの手首をつかんだ。
普通、受信映像はいくら立体にみえたとしても所詮映像、掴もうとすればスカッと手が突き抜ける。しかし生々しいアスタロトの手の感触にショウはびっくりした。
「ひらめいてちょっと呪文を修正してみたんだ、かなり実体ぽいだろ? この空間魔法はなかなか具合がいい」
ショウは息を呑む。こんな高度な魔法をこともなげにこの人は……
感心している場合ではないのだが、魔法をある程度使える者なら誰だって絶句する技術なのである。しかしショウは雑念を追い払ってアスタロトの真正面に座った。
「まず一つ質問させて頂きたい。もしかして大魔王様は具合など悪くなかったのでしょうか?」
「ああ」
ルクルが聞いたら卒倒しそうだが、アスタロトはけろっと白状した。ショウは低く呻き、さらなる追求をする。
「てことは、天地会談の三日目にお部屋で休んでいたのは偽物ですね? 人間界から護衛されて魔界のお城に戻ったのも同じく」
アスタロトはニヤニヤ笑ってショウの推察を聞いている。
「昨日通信をしても出てこなかったのは、ここに偽物しかいなかったからですね。大魔王様が戻れたのは……今朝、ですか?」
「御名答」
アスタロトは小馬鹿にしたように拍手した。さっそくショウから睨まれるが、肩をすくめて言葉を続ける。
「まったく、ルクルが気を遣って偽物を出さなかったのは誤算だった。気付くわけなどないのに。なにしろ天地会談なんてネームバリューこそ凄いけど、内容はレポートの発表会だ。そのレポートだって事前に内容は流れてきている。意見交換会も発言のシナリオはすでに出来上がってるものだ。俺たちは役者でもないのに台詞を覚えて会議に出席している」
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