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「誤魔化されませんよ、私は! 心配なんかしてないです! 大体、私は大魔王様が病欠と聞いたときから信憑性は五分五分だと踏んでいました。真実を確かめたかっただけです!」
「ふうん」
アスタロトは余裕ありげに返事をした。ショウは面白くなく、お茶を飲みながら頭を回転させる。そしてふいをついた。
「時に、克己は元気でしたか?」
「ああ、憎たらしいぐらい……あ」
アスタロトは舌打ちした。ショウは得意げにお茶を置いた。
「やっぱりでしたか。四大大魔王ともあろう方が会議をすっぽかしてわざわざどこに行っていたかと思えば芳賀屋でのんびりとは驚きだ!」
「……だってあいつが泊りに来いというから」
アスタロトは目をつぶる。これから集中砲火を浴びようというのだ。ショウを正視できるわけがない。案の定、ショウの語気は勢いを増した。
「泊まりに? 宿屋なんだからそれぐらい言うでしょう。そんなのいちいち真に受けて本業を疎かにするなんてどうかしてます」
「そんなのわかってる。だから今回は特別なんだ。克己にどうしてもと拝み倒されて」
「どうしても? 何で」
コイツのこういう細かいところが本当に面倒だ。まるで犯罪者を糾弾するみたいにガミガミ煩い。アスタロトは詰問調のショウにうんざりする。
「だーかーら。克己はそもそも芳賀屋の人間じゃないだろう。あいつは本当は都会のサラリーマンだ。病気を治すために湯治に来て、そのまま温泉宿の主としておさまってたわけだから」
「知ってますよ、わざわざ説明しなくったって。私も一緒に調べさせられたんですから」
「理由を聞きたいと言ったのはお前だぞ、大人しく聞け」
アスタロトは咳払いした。
「つまり克己にとって記憶が戻り病気も全快となれば、芳賀屋にいる理由がない」
「まあそうですね。確かに」
「でも克己は芳賀屋が気に入った」
ここでなぜかアスタロトは胸をそらす。喜びを隠しきれないようだ。
「それで正式にこっちに移り住むことにした」
ショウは冷ややかにアスタロトを観察していた。どうせ克己から相談を受けて二つ返事で手を貸したのだろう。芳賀屋を正式に引き継がせるためのアレコレなんて、大魔王にとっては朝飯前の魔法だ。
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