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「おお、肉ジャガがある。これ夕飯の余りか? これでいいから温めろ」
「これでいいってお前、人んちの冷蔵庫覗くな」
「今更何を恥ずかしがっているんだ。この家の食糧が乏しいぐらいとっくに知っている。だから余りもので妥協してるんだろう。ホウレンソウのお浸しももらうぞ。こっちははるばる夕食抜きで夜空を飛んできたんだ、空腹でな。うーむ、おかずだけじゃ足りん」
「炊飯器に御飯残ってる」
「でかした。茶碗を借りる。しかしこれだけでは喉がつまってしまうな、克己、みそ汁!」
悪魔は炊飯器の蓋を開けたまま、首を伸ばして克己を呼んだ。まるでおばあちゃんちにやってきた孫である。克己は深い溜め息をついた。……ああ、やっぱり太郎は太郎だ。克己は台所に入り、鍋を掴んだ。
「わかった、二人分の御飯用意するよ。茶の間の電気つけて座ってろ」
「そうか、悪いな」
口先ばかりの謝意をのべて、悪魔は嬉々として台所から戻ってきた。さっそく天使に座布団を勧める。天使は人間の作ったものなんて、とぼやいていたが、取り合えず従順に足を崩した。
「克己んとこのご飯は、味付けや切り方が雑だがそれなりに美味しいんだぞ。お前も食べてみろ」
「私は銘酒魔界酒の方が気になります。おかずはつまみに頂くとして……それにしても茶色いおかずばかりだ。色彩感覚が欠落している。何だこの煮崩れ方は、火の通し方がわかってないな。まあまずくもないが。おかわり」
文句を言いながらも、天使は運ばれてきた肉じゃがをぱくぱく食べた。悪魔だけでも大変だったのにお世話の労力は確実に二倍である。
「せっかくだからみんなで飲むか」
悪魔が土産物だったはずの魔界酒をあけ、さっそく酒盛りが始まった。
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