3-1 魔界

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「よかったじゃないですか。これでいつでも遊びに行けて。安心だ」 「いや、そう思った矢先に両親が様子を見に来たんだ。あの田舎町はのんびりして良い処だが、あまりに辺鄙だろう。親にしたら朽ち果てそうな宿屋の主人なんて反対するのも無理はない。慌てた克己は繁盛アピールで俺に泊ってくれと頼んできた」 「大魔王様に客のフリをしろと? サクラじゃないですか!」 ショウは憤慨して食って掛かった。 「フリじゃない。ちゃんと泊まってるんだから立派に客だ。それに俺のように品のある常連客がついているとわかれば親の心証も違うだろう」 「無理じゃないですか? 一人ぐらい客が増えたって。だって実際、将来性のカケラも見いだせない宿屋ですよね。温泉だって近所の年寄りばかり、家屋はボロで閑古鳥、私なら引きずってでも連れ戻します」 「大丈夫だ、人数はいくらでも増やせる。俺のダミーの試作が沢山余ってるから、5人ばかり連れていった。御両親も賑わいに驚いていた」 「そりゃ同じ顔が5人も揃ってたら驚きますよ! そんな面倒なことしないでさっさとその親に都合のいい魔法でもかけて騙した方がいい」 ショウは天使とも思えない倫理観に欠けた提案をする。アスタロトは眉を寄せた。 「克己は大事に育てられた一人息子だ。愛情深いからこそ心配する。俺ができることは安心させることで、上っ面の嘘で誤魔化すことじゃない」 まさかの正論にショウは口を結んだ。それをいじけているのと勘違いしたアスタロトがなだめるように言う。 「わかってる。大丈夫だ、今回は会議中でお前に声をかけられなかったが、また近いうちに遊びに行こう」 「……言いたくなかったですけどね、あまり克己に深入りするのもどうかと思います」 ショウは思い切って切り出した。アスタロトが訝し気に視線を上げる。反論される前にショウは続けた。 「人間の寿命は短い。わずかの間は友達気分を味わえるかも知れないが、みるみる老いて確実に先に死にます。転生を待ったとしてもを結局、出会ってはまた死なれる事になる。大魔王様は何度も克己に置いていかれるんです」 アスタロトの顔が強張った。
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