3-1 魔界

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「嫌な事を言ったかもしれませんが、人間と付き合えば必ず訪れる試練です。あなた様は情が深い。よく自覚しておいた方がいい」 「そんな事はわかってる」  ショウは青ざめたアスタロトの頬に触れた。これも魔法の力なのか肌の柔らかさまでちゃんと伝わってきた。 「失礼、顔色が悪い気がして」 「無用だ」  アスタロトはショウの手を押し戻した。強い感情を裏付けるようにアスタロトの瞳が濃い紫に染まっている。俯くアスタロトを見ていると、まるで子供をいじめたような罪悪感に襲われた。 「申し訳ありません、色々と失言をいたしました」 「おい、ショウ」 最後に消えそうな声で失礼と呟くと、ショウは唐突に姿を消した。  ……なんだかなー、あいつは。  おいてけぼりをくらったアスタロトは気まずさを隠せず、ポリポリと頭を掻いてみる。  なんだってああ絡むんだかなー、融通がきかないっていうか……  アスタロトは椅子から立ち上がり空間に浮かぶ右上のドアを開けた。巨大な機械が何枚も紙を吐き出している。床一面に広がった紙で足の踏み場もないほどだ。アスタロトは機械の前まで跳んで紙を拾った。魔法塔の書物から情報をまとめて引き出している。 「さすがに時間がかかるか」  今回の調べものはかなりの難題である。それがわかっていたから早々に魔法塔にこもっていたのだ。アスタロトのふるまいは奔放に見えるが実際はそのほとんどに理由がある。  しかしなあ。  アスタロトはさっきのショウの反応を思い出し、肩をすくめた。  よりによって俺の狙いが紫玉だと知ったら、あいつどんだけ騒ぐんだろう。  アスタロトはくつくつと忍び笑いを漏らした。 「でも、俺ってそれほどタフでもないけどヤワでもないんだよなー」    で。とりあえず紫玉だ。  アスタロトの顔から笑いの色が消え、真剣な眼差しが戻ってきた。そして延々と吐き出される資料を手に取り、誰も声も耳に入らないような集中力で没頭しはじめた。
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