3-2 天界

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「フル参加して何か特に気づいたことはあったか」 「気づいた……といっても特には。皆様と同じ事しか存じませんよ。ただ、……そう、アスタロト様が突然具合を悪くされたのは驚きましたね」  ラファエルは、その面影を思い起こすように、ふっと息を吐いた。 「アスタロトの名を継ぐ者は美しくなければならない。だからあの方が麗しいのは当然のことですが、線の細さといい、はかなげな風情といい、現アスタロト公爵は歴代公爵の中でも特にアスタロトにふさわしいと思いませんか。魔界の美花といわれるのもわかりますね」  芳賀屋ではナマコのように茶の間でだらけているアスタロトだが、世間的には魔界の美花などと言われているのである。  美醜の点からいえば魔界出身で見目麗しい者はほんの一握り。だから天界の者からみても美しいと思わせるアスタロトの容姿は群をぬいている。幸か不幸か、それだけに注目されやすく、言動が目立つ。 「そういえば」  話題がアスタロトに及んだので、ルシフェルは魔界の噂を思いだした。三界のパイプラインとも言うべき職務だけあって情報は誰より早い。 「アスタロト様は紫玉をねらっているらしいですよ」 この台詞がその場に響いた瞬間、サロンの雰囲気は一変した。  ガタン。バタッ。  思わず立ちあがったミカエルが、イスを倒した音である。 「なんだと!」「馬鹿なっ」「紫玉?!」 みんな口々に何か言ったが、同時なのでよくわからない。ミカエルは唸った。 「あんなものに手を出すとは血迷ったか、アスタロト大公爵!」 ひどい言われようだが、他の面々もまさに同意とばかりに頷いている。 「野心家ときいたことはなかったが、天地征服をお考えか」 「確かに紫玉があれば可能だが、あれはタルタロスにある。辿り着くまでに塵になって消えてしまうじゃないか」 ウリエルは頭を振った。ルシフェルは自分の一言が容易ならざる波紋をおこしたことでかえって恐縮してしまい、まあまあと手で空を抑えた。
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