3-2 天界

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「いや、噂ですよ。そんな話があるような、ないような、そんな程度のことで……」 「噂に出るのなら何らかの動きがあるのは間違いない。しかし紫玉とは」 「もし手中にすれば一大事ですよ」  六大天使たちは興奮さめやらぬ調子で議論に突入した。お茶など後回しである。  ________さて。  この、アスタロトの話題を、壁一枚へだてた控えの間で盗み聞きしている者がいた。  よく気が付くと評判のラファエルの側近である。  六大天使の茶会補佐は、話題が秘密事項に及ぶこともあるため、よほど信頼のおける高官でないと指名されることはない。  ショウである。  彼は天地会談から天界に戻ってすぐにこの名誉な呼び出しを受け、役目を務めているところだった。今日はいつにも増して大がかりで特別な御茶や御菓子の準備で朝から大わらわだったが、無事始まって一息ついたところだったのである。  しかし、ルシフェルが持ち出したこのとんでもない噂話で真っ青になった。 「冗談じゃない、アスタロト様に限ってそんな馬鹿なマネ……やりかねない、やりそうだ、あの方は!」  ショウは思わず呟いた。  普段はそんな粗忽な真似はしないが、とにかく衝撃の連続である。  つい先日、魔界の四大実力者が天地会談をバックレていたことを知り、墓場まで秘密を守らねばなどと健気な決意をしていたばかりなのに、天界の六大天使も同じくサボっていたことを知り絶句、しかしそれらの重大な秘密すら、アスタロトの噂話で吹き飛んだ。  しかし紫玉? よりによって何てものを!  ショウは今すぐにでも飛び出していきたい気持に突き動かされながら、ショックのあまり豪華な御茶菓子が幻のようにかすんで見えた。
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