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1-5 朝
さんさんと太陽が照っている。
結局ゆうべは三人で銘酒魔界酒を一本飲み干し、そのまま酔いつぶれて朝を迎えていた。くらくらするような二日酔いに堪えかねて、克己は天使に直訴した。
「昇、天使なら二日酔い治せないかなあ、魔法で」
昇とは天使の呼び名である。正式名称がショウ・マキなので、当て字で昇とした。一応、村人に素性を聞かれる可能性があるため、太郎の友人という設定である。人類以外の知り合いが増えていく克己の将来が心配である。
「試練は甘んじて受けるものだ」
熱く濃いコーヒーを飲みながら、天使は悠長な事を言う。
「私は何度も忠告したはずだ。そこらへんでやめとけとな。お前もいっばしの成人なんだから、自戒する術を学ぶがいい」
「天使ってもっと優しいんじゃないのかよ、ケチ」
「ケチとは何だ! そんなものは人間の勝手な思い込みだ。そもそも自分の後始末を人に頼む事自体、甘えた料簡だぞ」
天使は取りつくしまもなかった。人間の姿に化けているが高貴なる雰囲気は隠し切れない。そしてかなりの説教好きである。
「じゃいいや、太郎に頼む」
克己はずきずきする頭を押さえて庭に出た。自分でも驚くほど酒に弱くなっていた。最近は昔ほど食べられず御飯もおかずも残ってしまう。悪魔の酒豪ぶりと天使の食べっぷりが見事だったのでそう思うだけかもしれないが。
一応温泉宿の中庭なのでつくばいがあり滾々と水が湧いている。風情だが、手入れの技術が自然の生命力に太刀打ちできず草ボーボーである。茂る草の隙間から蛇がひょっこり出てきて、克己は慌てて避けた。荒れ庭は動物には住み心地がいいのか、つくばいの陰を住処にしていて時々首を覗かせる。
悪魔は空を睨むように立っていた。
「太郎、俺、飲みすぎちゃった」
克己の声で悪魔は振り返った。
「なんだ、あの程度の量で二日酔いか」
「うん、頭は痛いわ気持ち悪いわ。俺弱くなったみたい」
「あの酒が強いんだろう。どれ、こっちに来てみろ」
悪魔は近寄ってきた克己の額に手を当てた。
その手は水に触れているように冷たい。克己は当てられた手の指の隙間から悪魔の顔を見上げた。
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