3-4 芳賀屋

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「……つまり、紫玉は次元転換の高度魔法に必要不可欠な至宝で、大魔王様はその紫玉獲得に乗り出されている訳なんです。わかりましたね」  ショウの解説はサラサラ流れる小川のように淀みなかった。しかし、いくら弁舌がさわやかでも、次元論だの生存条件だのと、聞きなれない言葉の連続で克己は明らかに混乱している。 「わ、わかった」 「では、自分の言葉で説明してごらんなさい」 天使に促され、克己は必死に言葉を探した。 「だからあれだろ? 空気が違うんだろ? そんで違う世界にそのまま行くと死んじゃったり弱ったりするけど、そのし……紫玉? を使えば大丈夫なんだろ。なっ?」  長々と時間を費やして三界の成り立ちを話をしてきたショウは、克己の理解度を知りがっくりと項垂れる。 「だからですね! 要するに紫玉さえあれば、天魔人間界、どこでもフリーパスということです。いいですね。ここのところをおさえておいて下さい」 「なーんだ、初めっからそう言えばわかりやすいのにー」 「だからそう言ってるんですよさっきから!」 ショウはお茶をのんで気を静めた。  ……こんなに、怒る事はない。これは八つ当たりだ。  黙ってしまったショウを、おっかなびっくりのぞく克己の顔をみて、ショウは思いなおした。  そう、こんなに怒るべき事じゃない。理解能力は人それぞれだし、少なくとも克己は、理不尽な態度をとられているのに必死で話を聞いている。  ただ、頼むという事が引っ掛かるのだ。私ではなく、克己でなければならないのが、たまらなく神経をひっかくのだ。 「でもさー、ショウ。たしかにその紫玉ってすごいと思うけど、太郎って野心なんかエンのないタイプだぜ。妙な使い方はしないと思うけどな」 克己は気をとりなおしてショウを元気づけようとする。だがショウは左右に首を振った。そして一拍、間をおいてから一語一語かみしめるように言う。 「そんな事で心配などしない。問題なのは、そこではなくて、紫玉を手にいれるまでだ」
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