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「紫玉はタルタロスの森に封印されている。森とは名ばかりの厳重な防御魔法が張り巡らされた禁足地です。何故だかわかりますか?」
「全然」
わかる訳がない。ショウも答えなどアテにしていなかったらしく、そのまま続ける。
「紫玉は持ち主を得るまでアトランダムに機能するからです。範囲も次元も、変化している時間も紫玉の気分次第。危険すぎて誰も近づけない。苦手な次元に巻きこまれたら跡かたもなく消えてしまうでしょう。
タルタロスの森は果てしなく広くて、正確な紫玉の場所も不明です。いかに大魔王様が魔法に秀でておられても、長時間、森を彷徨っている間にいつ天界の次元になるか。紫玉の至近距離で防御魔法がどこまで通用するかもわかりません。そんな危険な場所へ行かせるなんて私は絶対に嫌なんだ」
話していくうちショウは熱くなり、剥き出しの本音がこぼれた。
一方、克己はたった1つの言葉に顔色が変っていた。
……あとかたもなく、消える?
それは克己を本気にするのに充分だった。ショウはまどろっこしい紫玉の説明などせず、この言葉だけを伝えればよかったのだ。
克己は顔色を変えてショウの腕を掴んだ。
「まだなんだな! まだ太郎はそのなんとかって森へ行ってないな?!」
「まだだ。だから頼んでる」
あまりに強い力でショウはその腕を上から押さえた。さっきまでへらへら笑っていた克己とは別人だった。まっすぐ見つめる視線が強い。
「こんなところで俺なんかに頭下げてる場合かよ、俺に言う前になんで自分で止めないんだ、間に合わなかったらどうするんだよ!」
「言われるまでもなく考えましたよ、私だって!」
「だったら」
「でも考えれば考えるほど私より克己の方が大魔王様を止められる確率が高いんです。だとすれば私にできるもっとも効果的な行動は、あなたに頭を下げて頼むことでしょうが!」
ショウは思わず怒鳴った。
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