3-5 魔法塔

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3-5 魔法塔

 アスタロトは相変わらず魔法塔にとじこもっていた。  紫玉を狙っている噂が洩れたらしく、世間がうるさいのである。  天界のお偉方のように物好きと呆れる輩もいたが、それはどちらかといえば少数派、天地征服をおそれる者もわずかだった。  では大部分の魔族の反応はと言えば、アスタロトのポストがあく! チャンス到来!とばかりに沸き立ったのである。  タルタロスの森、および紫玉はそれ程までに難物だった。  いかにアスタロトが魔法の名手と言えど、紫玉を奪いにいけば、おそらく高確率で消滅する。  もともと現アスタロトはその美貌で魔王達を陥落し、四大魔王についたと噂されている。そんな見掛け倒しの悪魔に紫玉を手に入れられるはずがない。  噂は噂を呼び、大魔王の下に控える魔王達は、はやくも次のアスタロトの座をねらって騒然としていた。  ポストが空けば希望者は一斉に名のりをあげる。  そして定められた期間内に殺し合うなり話し合うなりして、最終的に残った一人が新たな大魔王になるのだ。  一旦ポストにつけば、基本的には死ぬまでその座に君臨する。魔族は長寿ゆえ、めったに代替わりの機会はない。今回の話は、まさに降ってわいた幸運だった。  アスタロトがタルタロスの森へ足を踏み入れた事が確認されれば、即座に様々な暗躍がなされることは間違いない。入念な根まわしこそが勝利の近道、争奪戦の前から戦いは始まっている。そして早くも魔族の一部に不穏な動きがみえはじめていた。 「やれやれ、御苦労様な事だ」  アスタロトは長イスにでろーんと腰かけて、大画面をみていた。  この巨大なモニターは、アスタロトの透視魔法の集大成で、呪文ひとつで魔界中のあらゆる景色を見渡せる優れものである。
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