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「新妻オリゼは気立てのいい娘で、君に自宅から公爵家に通うようにすすめているそうだな」
「ええ。その気立てのよさで、家族なんだから皆で仲良く暮らそうなんてふざけた寝言を言ってますわ」
ルクルはどこまでも苦々しく言った。
「私は住み込みでも通いでもどっちでもいい。任せる」
「ありがとうございます。もちろん住み込みで!」
ルクルはあきらかにホッとした表情だった。アスタロトはにやにや笑っている。
「残念だったな、初恋にやぶれて」
「破れてませんから」
アスタロトの挑発をルクルは毅然とはねのけた。
「父には絶対に言わないでくださいね。時期がきたら自分で告白しますので」
「大丈夫なのか。君は有能だが恋愛は下手くそだろう」
言いながらアスタロトは画面をきりかえた。その目まぐるしい細切れの映像と同様、ルクルの頭の中でも自分の過去の断片が蘇った。
「確かに人間だった頃の私の男運は最悪でした。浮気は序の口、貢いで無一文になったとか、保険金目当てで殺されかけるとか。
とにかく恋愛するたびに修羅場になって捨てられてきました。圧倒的に相手がひどいのになぜか私がフラれるんです。それも納得いかないんですけどね!
それでいっそ本格的に呪ってやろうと思って悪魔を呼び出したらパパが出現したんです。それが運命の出会いでした」
「確かに人間とは思えないぐらい呪術のセンスがあったとは言っていた」
当時、ルクルの養父であるオズワルド魔王が震えながら報告してきたので、よく覚えている。
鬼のような迫力で祈祷しているところに呼びだされ、目が合ったら一転、一緒に魔界に連れていけとぐいぐい迫られ、気付いたら養子縁組していたというのだ。流されっぱなしの魔王もどうかと思うが、とにかく当時からルクルは剛腕だったのである。
「それにしても人間の小娘が魂を売って魔物に転身なんて、ずいぶん思い切りがいいな」
「そうですか? 人間界に未練もありませんでしたし、魔族で娘の位置づけになればずっと一緒にいられますし、悩む余地はないですよね。パパは奥手でしたので、まずは理想の魔女になって娘から妻へステップアップしようと綿密な計画書を作成しました」
ルクルは自分の父親の話になると愛にみちあふれる。ただ愛にあふれすぎて現実が見えなくなるのが難点だ。
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