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「その計画書を先に見せてくれれば一から添削してやったのに」
「結構です。計画は完璧でした。誤算だったのはオリゼです。私が妻にふさわしい魔女になるまであと一歩、魔女学の卒業試験と死神資格試験に集中している間に、あんなぼんやりした女と付き合い始めていたなんて……!」
ルクルの顔付きが変わる。
「オズワルドが癒しを求めるのは仕方ないだろう」
闘牛のような熱量を発散するルクルが猛然と狙いを定めているのである。アスタロトは同情を込めて言った。
「癒し? そんなもの私の存在でじゅうぶんじゃないですか。オリゼはボーっとしてるだけでパパとは全然釣り合いません。今でもパパの優しさが引き起こした気の迷いとしか! はっ!」
そのオズワルドはずんぐり体型の狸みたいなおっさんである。
なのにルクル目線では、グレーの瞳は知的な綺羅星となり、短い足は安定感のある逞しい体型になるのだ。
しかし夢は夢、現実は現実である。
嫁になる気満々だったルクルは就職活動を一切していなかった。だが働こうにも、どんなところでもいいというわけにはいかない。なまじ優秀な成績を収めてしまったがゆえにプライドがある。
さあ困った、というタイミングで大公爵家の秘書の話が舞い込んだ。
しかしこれは偶然ではない。表向きはアスタロトからの強い意向になっているが、実情は新婚なのに家の中の雰囲気が最悪だというオズワルドを見かねてわざわざ話を持ち掛けたのである。
ルクルはどこまで察しているのか、改まった口調で言った。
「アスタロト様には感謝しています。私も二人の新婚生活を真横でみるのはさすがに耐えがたいので住み込みの仕事は最適でした。どうせすぐに破綻するでしょうから、それまでこちらでお世話になります」
不穏な確信を秘めたルクルの宣言に、さすがにアスタロトもそれ以上のツッコミを控えた。
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