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「とにかく君は有能だ。秘書としては申し分ない」
「おそれいります」
アスタロトはサラッとした上下関係が好みである。ルクルは愛情を注ぐ先が父親限定なので気楽なのがよい。
アスタロトはハイビジョンのスイッチを切ると、ルクルの方に首をまげて指示を出した。
「仕事がふえて悪いが、調査の件はよろしく頼む。最優先事項だ」
「お任せ下さい。万事抜かりなく進めておきます」
「私は紫玉のデータが揃い次第、タルタロスへ向かう。留守中はこの前の体調不良が続いてることにして面会謝絶で押し通せ。どうせ誰も信じないだろうが、引きこもるのには名目が必要だからな」
「承知いたしました。こちらのことはどうぞお気がねなく、御健闘なさいませ」
「しおらしいじゃないか」
「アスタロト様が失敗なさると私は職なしになりますので。私にできるかぎりのバックアップはさせていただくつもりですわ」
家に帰るのはどうにも避けたいという一念である。だがアスタロトは気持ちよくその言葉を受けとり、それは好都合、と微笑んだ。
利害関係が一致したところで二人は頷きあう。と、その時だった。
……ろう。太郎!
きこえてるか、俺だっ。おーい! 話があるぞー!
アスタロトの頭の中へ直接、聞きなれた声が聞こえてきた。キンキン響いてやかましいそれは明らかに芳賀屋の克己の声である。
ははあ……やっぱり聞きつけたか。
アスタロトは思案するように顎に手を当てた。とはいえそれもルクルを前にしたポーズに過ぎず、次の瞬間には姿を消していた。
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