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難しい顔をしていても悪魔は美しい。伏せた睫の長さにしみじみ見惚れる。
なぜか克己は悪魔が全然怖くない。
出会いこそ物理的にも衝撃的だったが、悪魔と知ってもこうして一緒にいることに違和感がなかった。誰にも愛想のいい克己だが、ひときわ悪魔には気持ちが馴染む。
「よし、もういいぞ」
悪魔の手が離れた。体が見違えるほど軽い。
「ありがと、すごいな。なあ、庭でボーっとするなら帽子かぶれよ。俺の麦わら帽子、押し入れに入ってるから貸してやる」
「ああ」
すっかり気分が良くなって克己は大きく伸びをした。四方を囲む山の緑が鮮やかで青空に入道雲が浮いている。
「こりゃあ、ガンガン気温上がりそうだなー」
「そんなに暑くなるのか」
「多分陽炎が見えるよ。俺は暑いの結構好きだけど、こういう日はちゃんと食べないと体が持たないからな、朝飯にしよ」
「二日酔いが治ったらもう食べる算段か」
悪魔は苦笑いした。
「だって今日はすげえ働くんだろ、御飯ちゃんと食べないと」
「わかった」
克己が走って先に行く。だが、悪魔は立ち止まって、もう一度空を見上げた。
……すごい瘴気だ。
渦を巻いて、この村中を覆っている。この家の周辺にはかなり強力な結界を張ってあるので近寄れずにいるが、一歩外に出たら戦闘状態だ。
「太郎!」
「今行く」
克己の呼ぶ声に返事をしたが、結界の外に背中を向けた瞬間、悪寒が走った。纏いつくような、つき刺すような激しい敵意が潜んでいた。
……それにしても、この太陽。
焼けつく日差しは魔力を弱める。悪魔はじっとり浮かんだ額の汗を拭った。
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