3-6 説得

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「やめておけ。せっかくの願い事なのに無駄遣いになるだけだ」 「なんで?! 今だろ!」 「私は大魔王だ。一度決めたからにはやめる事はない。願いの成就にはいくらでも逃げ道がある。今日はやらないけど明日は行くとか、紫玉じゃなくてタルタロスを破壊に行くとか、どうにか屁理屈をつけて結局紫玉をとりにいく」 「なんだよそれ、卑怯! 全然願い叶ってないじゃん!」 「悪魔だから卑怯で当然」 アスタロトに小狡い駄目だしをされ、克己は思いっきり膨れた。 「じゃあとにかくダメったらダメー!」 「やかましいわ!」  田舎の一軒家をいいことに耳をつんざくような大音量である。アスタロトはこめかみを押さえた。  紫玉の件があれだけ噂になっている以上、ひょっとしたら天界にも話が伝わってしまうかもしれない。そうなればショウの耳にも入り、したがって克己の耳にも入るだろう……とは思ったが、ここまで激しい拒否反応がでるとは思っていなかった。これは余程、ショウが克己にあらぬ事をふきこんだにちがいない。  ……にしても、まいった。  天使の読みは的確でアスタロトはなるほど克已に弱いのだった。嫌な奴ならいくらケンカをしても平気だが、克己相手に後味の悪いマネはしたくない。  とはいえ異界の住人に紫玉に絡んだ真意を洗いざらい話すわけにもいかなかった。アスタロトは猫なで声を出す。 「あのな? お前にしたら出し抜けの話なんだろうが、天使にしろ悪魔にしろ、紫玉は魔法を志した者なら一度は狙ってみたい至宝だ。ここまではわかるな?」 「おう!」 「私もずっと資料を集め、技術を磨いてきた。訓練というのは一朝一夕にはできない。それはそれは長い期間をかけた。ようやく呪文の解析も終わり、時期も整った。登山家が険しい峰を目指すように、アスリートが限界に挑戦するように来るべき時がきたというわけだ。むしろここまできてやらない手はないだろう?」 「うん……」 「そんなわけで私も準備万端で臨む。だからお前が心配するようなことにはならない。安心しろ」 「そっかぁ……じゃない! 言い方を優しくしたって駄目だ!」 克己はまた黙ってしまった。うっかりのせられるところだった。とりあえず言うべきことは言ったので、あとは持久戦である。
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