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克己はアスタロトやショウが遊びに来ることをいつも待っている。『御泊りですか?』と電話を受ける時、心のどこかで二人の声を期待する。
克己はその基盤を失いたくはなかった。
ここにいる事を決めて相談した時、アスタロトは驚くほど嬉しそうな顔をした。あんなに内側から喜びが零れるような笑顔ははじめてみた。それだけでも決めて良かったと思った。
アスタロトとこれからも話をしたり、我儘を言われて怒ったり、しみじみと散歩をしたい。ずっと、こんなふうに続けばいいと願っている。
だから。
克己は膝の上の拳をぎゅっと握る。
だから絶対に、太郎が消えたりしたら嫌だ。
困る。太郎が魔法にすごく真剣なことは知ってる。それは仕事や名誉に関わる大事なことなんだろう。
でも駄目だ。これは俺の我儘だ。でも、そうとわかっててもひかない。俺の勝手が理由で何が悪い!
克己は頭の中で理論武装すると、意気込みを新たにした。だからアスタロトが反応を伺うように、だからさー、と切り出した途端、克己はその倍くらいの大きな声で、
「なんだよっ」
と言い返した。アスタロトは鼻息の荒い克己を、まあまあとなだめた。
「とにかく説明した通りだ。もういいよな」
「やだ! 俺はとにかく太郎に危ないところに行ってほしくない」
「あのな、紫玉をねらった連中が今まで全滅したのは、ただ単に弱かったからだ。野心ギラギラの雑魚ばかりで、一流どころは誰も手をだしていない。なんでかわかるか」
アスタロトはこんこんと諭した。
「必要がないからだ。名声も地位もあるのに、今さらリスクの高いものに手をだしたりしない。大抵は守りに入る。だがそんなのつまらないじゃないか」
アスタロトの目がキラリと光った。
「私は魔法だけは誰にも負けたくない。紫玉がとれるだけの魔力はあるはずだが、実力は試してみないとわからない。だからやってみたいんだ。な、克己、わかるだろう? 行かせてくれ」
「う……」
アスタロトに懇願され、またもや克己はぐらつきそうになった。
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