3-6 説得

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 アスタロトが克己に弱いように、克己もまたアスタロトに弱いのである。普段からわがまま聞き放題、甘やかし放題にしているのがいい証拠だ。  克己はジレンマで押しつぶされそうだった。そして、押し流されないように声を荒げた。 「やだ! 俺はやっぱり嫌だよっ!」 「待て、聞け!」 「聞かなーい!!」  このまま話を続けたらきっと懐柔されてしまう。その危機感で克己はガラッと障子をあけ、縁側のサンダルに足をつっかけて、でやーっと走りはじめた。 「おいこら、どこにいくんだ!」  当然返事はない。なにしろ克己にもわからないのだ。ともかくアスタロトはあとを追って駆けだした。  さすがに日頃、肉体労働をしているだけあって克己は見た目より足が速かった。アスタロトもとっさのことで、魔法も使わず馬鹿正直に追いかけているからなお手間どる。 「克己ー! はー、どこいったんだ、あいつは」  アスタロトは両手の親指と人差し指で三角の枠をつくった。そこから覗くと数キロ先まで透視できる便利な技である。しかしここですごいと思うのは大間違いで、いくら速いとはいえ人間の克己がこのわずかな時間に何キロも先までいけるわけがない。アスタロトも冷静なようで混乱している。 「あ、なんだ。けっこう近くに……ん?!」  克己は数百メートル先に立っていた。なぜ走っていないかといえば、その先は林を抜けた断崖絶壁だからである。落ちればひとたまりもない。 「な……」 克己の姿をみつけて安心したのも束の間、あまりにも危険な場所でアスタロトは絶句した。  あのバカ、危ないだろうが!  アスタロトは猛ダッシュした。瞬間移動すればいいのに、焦るあまりこれまた忘れていた。ざざっと草を分ける音で克己はふりかえった。 「来るなよっ」  克己はすでに青ざめていた。柵もない高い場所はかなりの恐怖感がある。自分でもなんでこんなことになったかわからないが衝動のまま言い放った。 「もし……もし、紫玉をとりにいくっていうんなら、俺、飛びおりるぞ。危険だからやめろなんていうなよ、太郎がしようとしているのと同じだ。同じことだからな!」 足の震えにあわせて、声まで震えてくるので妙に迫力がある。
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