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アスタロトは一気に翼を広げ、自分も飛んだ。
真っ逆さまに落ちる克己を地面に着く直前にキャッチする。アスタロトはそのまま瞬間移動して芳賀家に移動した。
あっという間だった。
見慣れた庭に戻ると、克己はアスタロトから離れて地面にへたりこんだ。一瞬のことなのに冷や汗がすごい。アスタロトも脱力のあまりしゃがみこむ。
「……二度とするなよ」
怒っていた。克己はしゅんとして正直に言った。
「太郎いるから落ちても大丈夫だって思ってやったんだ。でもびっくり」
「こっちこそびっくりだ! なにも本当に落ちる事ないだろう!」
「だってしょうがないじゃん、とにかく本気って伝えようとしたら、想像以上のパフォーマンスになっちゃったんだよ!」
「パフォーマンス? そんな理由で命を落としたら馬鹿丸出しだぞ」
アスタロトは子供に言い聞かせるように叱った。だが、克己は困ったように笑った。
「太郎を止めるのは馬鹿な理由なんかじゃないよ。同じ状況になったら俺、やっぱりこうするよ」
「……危なっかしいなお前は」
アスタロトは顔をしかめると、右手を持ち上げた。
さっき克己を受け止めた衝撃がまだ残っている。アスタロトの手は一見優美だがよくみれば鋭い爪に細い指で、鋭利な武器を想像させる。アスタロトはその手を自分の胸元にすべりこませた。ずぶ、と肉の中に手が埋まっていく。克己は目を剥いた。
「え? わー! 太郎、なにしてんだよ、手! ぐにって!」
「いいから黙ってろ。こっちは集中してるんだ。まったく話せと言えば話さないし、どうでもいいときには喚きまくるし」
苦しげに眉を寄せたアスタロトだったが、言いながら手首から先は体の中に入れてしまった。克己は目の前で見ていながら、そのグロテスクな状態を理性が納得しない。潜ったままのアスタロトの手首が何かを捕まえようと上下に動く。
「太郎、体に悪いことはやめようよ。な? な?」
「んー、もうちょい……」
アスタロトの額にみるみる冷や汗が浮かび、頬を伝ってしたたり落ちた。
克己が見みかねてアスタロトに触れようとした瞬間だった。その体内からばきっ、という鈍い音が響いた。
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