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「よし」
アスタロトは肩で大きく呼吸すると、体内に埋まっていた手を出した。その右手は血みどろで、白い肌に血液の対比があまり鮮やかだった。そしてその掌が握っているのは、ぬめぬめと血にまみれてはいるものの、どうやら骨らしい。つまり体に直接手をつっこんで自分の骨を折ったのだ。
「ああもう、やっぱけっこう痛いじゃないか」
アスタロトは顔をしかめつつ、崩れるように横になった。
「太郎! うわー、血がっ。こんなとこで寝ないで部屋行こ! 俺、ふとんしいてくるから」
「いいって、ここで」
「よくないっ、何したんだよ、おまえはぁ!」
目を伏せたまま、アスタロトは答えた。
「だから胸骨の下の方にある剣状突起っていう骨を折ったんだ。ちょうどいいサイズ感だし、心臓に近いところの骨は力が強い。これお前にやるよ」
「きも!!」
「失礼だな、おい」
思わず叫んだ克己の正直すぎる反応にアスタロトは眉をしかめる。
「でも俺んち仏壇も骨ツボもないもん、置くとこないってば」
「やめろ死体扱いするな。そういう形見分けみたいなのじゃない。悪魔の骨はお前を守ってくれる強力なお守りだ。いいから持ってろ」
「お守り」
「ああ」
アスタロトは、それっきり口をきかなかった。動こうともしないので、克己もつきあってそこにいる。立ってても仕方ないので克己は隣で体育座りになった。
このお守り、生々しくてなんかやだなー。こわー。
アスタロトの手の中にある骨をみて、克己は複雑な心境になる。
でも、あんな痛い思いまでしてわざわざ折ってくれたんだから、ありがたく貰うべきなんだろうなあ……とはいえ骨ってやばくない? 悪魔の感覚だとフツーなのかもしれないけど、そもそも何でお守りなんか……あ!
克己は息をのんだ。やっと気づいたのだ。遅い。
ひょっとして、俺が危なっかしいからそれでわざわざ?
太郎が紫玉をとりにいった後、俺がやけになって自暴自楽になったりして(ならないけど)、そうしたら助けにこられないからかわりにお守りアイテムをくれようとしたってこと?!
「重っ!!」
ようやくアスタロトの真意に気づいた克己は青ざめた。またしてもせっかくの心遣いに失礼な呟きだが、アスタロトはその声に反応してうっすらと目をあける。
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