3-6 説得

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「再生が完了した。欠けた骨の分は元どおりになった」 「えっ、骨って生えてくんの?」 「魔族は生命力が強いんだ。細胞の質が人間とは違うんだよ。一部分でも残ってればどうにか再生できるぐらいだ。まあ、再生するには回復魔法をかけなきゃならないから、それだけの頭が残ってればの話だがな。とにかく胸骨の先が欠けたくらいでは何でもない。すぐ元に戻る」  アスタロトはむくりと上半身だけ体を起こし、土ぼこりをはらった。  右手に軽く息をふきかける。すると真っ赤だった骨片に光が満ちて、象牙のアクセサリーのように変化した。ご丁寧に鎖付きのネックレス仕様になっている。これなら不気味な感じはしない。 「いつも身に着けてるように」 「あ、うん」 無造作にポイと渡されたので、克己もつい受け取ってしまった。 「じゃあ行ってくる。終わったらまた遊びにくるから美味しいものを用意しておけ。酒は私が持ってきてやる。お前、魔界酒好きだったよな」 「うん。特選のやつ」 「はじめに高級品を飲ませたのが失敗だったな。まあいい、特選を買ってくるとしょう。つまみを研究しておけ」  アスタロトが立ちあがった。もはや止められる段階は通り過ぎてしまっていた。何をしてもアスタロトは紫玉に向かう。克己はつられて立ち上がった。 「太郎! いいか、とっとと紫玉とりにいってすぐに帰ってこいよ。俺、つまみの研究なんかしなくたって、もうめちゃくちゃ上手いんだからな!」 アスタロトはふりかえって、ふっと微笑んだ。 「それじゃ、お手並拝見といこう。近所のオバさんたちから分けてもらうのは反則だぞ」 「わかってるよ! 最高に美味いの作るから早くもどってこい!」 アスタロトは答えず、克己に背中をみせたまま掌だけひらひらと振ってみせた。そして、翼を広げると一度だけ克己を振り返った。その紫色の瞳に釘付けになる。  もう、二度と会えないかもしれない。  急にそんな想いに囚われて胸がしめつけられた。 「太郎!」  駆け寄ったが、あっという間に上昇して手が届かなくなっていた。背のびをして空を見上げる。手の中にある骨をぎゅっと握ってみる。  大丈夫。  大丈夫、太郎なんだから。  何度もくり返し心の中で念じてみるが、不安は消えるどころか大きくなる。克己は夜空を見上げ、アスタロトの飛び去った軌跡を目で追った。
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