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「魔族にとって失敗は死に値する。俺は世間から笑われてまで戻る気はない。紫玉を手に入れるか消えるかどっちかだよ。かっこ悪いのはごめんだ」
アスタロトはおどけて笑ってみせたが、ショウは笑うどころではなかった。
「大魔王様!」
腕をつかもうとしたが、果たせなかった。アスタロトはスッと姿を消し、数メートル先に立っていた。
「話しすぎた、もうそろそろ行かなくては」
「大魔王様!」
「頃合いだ」
アスタロトは羽を一本抜くと、空に真一文字を描いた。
「結界を張る。10分もすればとけるから大丈夫。こうでもしないとなかなかお前をまけないからな」
びりっ、と青い電波がはしった。アスタロトの言う通り、ショウの足はびくりとも動かない。
やられた、と思ったが遅かった。
「アスタロト様っ!」
アスタロトはゆっくりと天使に背をむけ、羽ばたいた。
「私は! 世界中の人があなたを笑っても私は絶対笑ったりしない。たとえ、どんなにみっともなくても、帰ってきてくれればかまわない! 聞いているのか、アスタロト! 聞こえているんだろう!」
はあ、と息をはいて、結界がつくる壁を叩いた。バンバン激しく両手の握り拳で叩いたが、一向に結界はゆるがない。
アスタロトの姿は見る間に点のように小さくなっていった。結界を張られたのはショウにとって一生の不覚である。自分の声が届いたかどうかもわからないが叫ばずにはいられなかった。
きっかり10分たって結界がやぶれた時には、アスタロトの影も形もなかった。とっくに魔界入りしてしまっただろう。ショウはその場で立ちつくしていた。
なんとかしなくては。
何故か、体中の血が逆流しているような心地がした。ふつふつと力が沸いてきて、心の奥が熱の塊を抱えたように熱かった。
ショウは羽を広げ、天界をめざした。
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