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3-7 タルタロス
アスタロトは天までそびえる頑強な壁を見上げた。
全体に古ぼけてはいるが、滑らかで継ぎ目一つない。
壁は、ただただ高かった。
アスタロトはポン、と左手で壁を叩き、その冷たい感触を確かめた。
なるほど、聞きしに勝る鉄壁。
タルタロスの森をぐるりと囲む壁は三重に張り巡らされている。
この強固な壁は、紫玉の影響を漏らさないためのバリケードであり、開閉機能を持つ門は存在しない。
紫玉は森の奥深くに眠っている。過去の文献によれば、六角柱の封印塔の中心部に据え置かれ、九十九の呪文で力を封じられていた。
とはいえ、そこは強大な力を持つ紫玉のこと、どんなに呪文を駆使しても完全にその力を封印することはできなかった。結果、塔から洩れる次元変化の波動は周囲の生物を無に帰し、肥沃な土を砂地に変えた。
これではおちおち周囲を歩くこともできない。時の魔王たちは話し合い、これ以上の悪影響を防ぐため、相当数の魔法使いの命とひきかえにしてこの防御壁を完成させた。
主を持たない紫玉は活動期と休眠期を交互に繰り返す。
その切り替えには全く規則性がない。アスタロトは腕を組み、わずかの間、目を閉じた。
……時間を止める魔法は多次元活用できないから紫玉の前には無意味。
かといって空から入ろうにも、紫玉の波動は上空まで到達する。逆に地下に潜る手もありだが、近づけば近づくほど波動の影響を免れないし、変化時に真下でくらったらもう逃げ場がない。
頼みの綱の瞬間移動は、幽体ならまだしも本体は同一次元間のみ有効。
とすると。
これまで数々の可能性を吟味してきたアスタロトは、自らに念押しするように軽く頷いた。
とすると、地味だが保護魔法で自分の周囲に結界をつくり、そのまま強行突破するしかない。
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