3-7 タルタロス

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 アスタロトは髪を一本、ぶつんと抜いた。    今日のアスタロトは髪が短い。長い髪は動くのに邪魔だ。さらに裾を引きずる魔法衣のマントも城に置いてきた。  激しい動きに対応するため、体にフィットした黒づくめの上下、一見ありきたりのニットとパンツの組み合わせだが、実際は魔法で強化した特別な繊維で出来たものを着用している。  手早くいく。集中して、短期決戦で。  アスタロトは自分に言いきかせた。  タルタロスに必須の全身を保護する魔法は、おそろしく体力を消耗する。  研究に研究を重ねてどの次元にも対応しうる強力な呪文を完成させたのは良かったが、そのために使うエネルギーが桁外れだった。  魔法の効力に対して、通常なら消耗する体力を一とすれば、この保護魔法では三倍、四倍と加速していく。  もちろん、短時間で天界に遊びにいくぐらいなら支障はない。  だが、この魔法を連続で丸一日以上行うと急激に体力を奪われる。最悪、突如卒倒し、全身を覆うシールドも自動的に消えてしまうのだ。  ここから導きだされる結論は一つ。  つまり紫玉を獲りにいくには、たった一日、24時間以内で事を済まさねばならない事になる。  アスタロトは、スッと息を吐いた。  抜いた髪の毛を空にとばし、それが地面に落ちるまでに一気に呪文を唱える。 「llsokieoj koloooirj ookorkki kokousn sko kwwwsueyfn dhuen ahuhue awd de dewati frskkeo ……」  古代魔法語の呪文を唱え終わるのと、髪の毛が地に着いたのは同時だった。魔法が効力を発揮し、全身がきらきら光る。  しかしそれもつかの間、すぐに周りの薄暗い闇色に同化した。アスタロトはチラリと周囲の様子を伺った。  予定通りか。  アスタロトは改めて壁を見上げた。まずは最初の難関である。
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