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砂と水だけが支配する無機的な世界は巨大な墓場のようだった。
とりあえず紫玉は休眠期らしい。空間はまだ魔界のものである。
封印塔は遠く、入り口からは全く見えなかった。目の前に広がるのは茫洋とした砂漠である。
今のうちだ。
アスタロトは気をひきしめて、一歩一歩慎重に足を進めた。振り返りはしないが背後の気配を読む。
通り抜けた穴の辺りに妖しい気配がざわついていた。アスタロトは無視して先を急ぐ。
5時間も歩いただろうか。
突風が吹いた。氷が混じっているような寒風である。
アスタロトは身震いした。シールドで身体を守っていてもこれなのだから、素のままだったらたちまち動けなくなってしまうだろう。
砂が風に煽られて視界を邪魔する。立ち止まると、ふいに足元が崩れた。見えない渦に巻き込まれたようにするすると砂が吸い込まれていく。
アスタロトは猛烈な勢いで走りはじめた。
地を蹴るたびに激しく砂埃が舞った。風は横なぐりに吹きつけて、飛び散った砂が顔や手足に弾ける。かと思えば引いたはずの砂が四方から集まり、足首に重く絡まってくる。
明らかに砂は意図的に動いていた。
反撃するか迷った瞬間、ザザーッと津波のように目の前の砂が盛りあがった。視界いっぱいに灰色の壁が立ちふさがる。
「また壁か」
うんざり呟いたアスタロトを咎めるように、砂の波がうねった。
波の上部から砂が崩れ、一気にアスタロトに流れてくる。逃げるそばから地に落ちた砂が再び波になって盛り上がった。逃げ遅れれば生き埋めになる。
アスタロトは目を細めて地下を透視した。
……いた。
「Amanita caesarea」
アスタロトは自ら地中に潜った。
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